83歳の独り暮らしの女性の「明るい日々」を描く|朝倉かすみさん新刊『にぎやかな落日』
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ryomiyagi

2021/05/29

撮影/光文社写真室

 

『平場の月』が第32回山本周五郎賞を受賞し、第161回直木賞候補にもなった朝倉かすみさん。新作は独り暮らしをする83歳の女性が主人公。「最後のほうになっても人生は本当ににぎやか。そんな感じを大事にしたい」と朝倉さん。心理描写が巧みな、普遍的で希望のある物語です。

 

最後のほうになっても人生はにぎやか。その明るい感じを大事にしたかったんです

 

『にぎやかな落日』
光文社

 

ごく普通の50歳の男女の、生きる切なさと心の隙間を埋め合うような恋愛を描いて各界から絶賛された『平場の月』から2年強。朝倉かすみさんは新作『にぎやかな落日』で新しい地平を開きました。

 

北海道在住のおもちさんは満83歳で独り暮らし。日常のことは週に一度来てくれる息子の嫁が手伝ってくれて、東京に住んでいる実の娘も日に二度は電話をかけてきてくれます。1歳上の夫・勇さんは10年前に脳梗塞で倒れ、昨年、特別養護老人ホームに入所しました。おもちさんは全力で勇さんの介護をしていたのですが、どういういきさつで施設に入ったのか思い出せません。ちょっと前、おもちさんはひどい風邪をひき、著しく老いが進みました。要介護2に認定され、糖尿病や大動脈瘤なども見つかりますが、おもちさんはひとつも覚えていなくて……。

 

「執筆のきっかけは母とのやりとりです。母はおもちさんと同じ83歳で独り暮らし。とてもしっかりしていて隙を与えない人です。その母の記憶が曖昧になり、話をしていても齟齬(そご)が出てくるし、説得もできないようになってしまって。そういう母に私がイラつくようになり、そんな私に母も怒るようになって……。ですが、母を見ていると“お母さん、何もわからなくなったんだ”と簡単に片づけられないのではないかとも思いました。それで、母のようなおばあさんの心のうちやどういう感じで生きているのかを書きたいと思いました」

 

勇さんが釣りから帰ってきてトロ箱を下ろすときのこと。妹のよっちゃんが家族連れで遊びに来たときのこと……。頭の中で時間が過去に飛んだり今になったりしながら生きるおもちさんの様子が丁寧に描かれます。読み進めるにつれ、おもちさんの姿が読み手自身の老いた両親や祖父母と重なっていき、たびたび胸を突かれます。

 

「おもちさんの記憶が行ったり来たりする感じで書きましたが、実際、母を見ていても、これくらい記憶が行ったり来たりするのはよくありました。小説の中ではあまり書かなかったのですが、母を見ていても、年齢を重ねると本当は納得していないのにこちらが言うことに同調する傾向が見られます。その分、周囲は誘導しやすくなりますが、それはそれで私は悲しかったんです。暴れてくれるほうがまだマシだし、そちらのほうがいいとも思いました。それもあっておもちさんの気持ちや様子はできるだけリアルに書いたつもりです」

 

朝倉さんは“暗い話にはしないと決めていた”と続けます。

 

「最後のほうになっても人生はにぎやか。体も変われば環境も変わるし、人も入れ替わるし……。たいていの場合、高齢者は“これから死んでいくという感じで生きている人”と思われがちでしょう? でも、私はそうは思わないし、施設に入った母を見ていてもそういう感じはありません。高齢者も若い人同様“これからも楽しく明るく生きていく人”なんです。タイトルにはそんな明るい感じを大事にしたいという思いを込めました。
小説には広い意味で娯楽としての役割があり、読んでいるときだけでも現実を忘れさせる力があると思っています。ここ1年くらいはそんなことを考えながら、自分も本を読んできました。だからそういう気持ちよく、心温まる作品を書きたいと思っています」

 

ラストがキラリと輝く、滋味深い作品です。胸の奥が温まります。

 

PROFILE
あさくら・かすみ◎’60年北海道生まれ。’03年「コマドリさんのこと」で北海道新聞文学賞、’04年「肝、焼ける」で第72回小説現代新人賞を受賞しデビュー。’09年『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞、’19年『平場の月』で第32回山本周五郎賞、第4回北海道ゆかりの本大賞受賞。

 

聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。

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