『感染捜査』著者新刊エッセイ 吉川英梨
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BW_machida

2021/06/02

コロナ禍とゾンビ禍

 

スプラッター映画は苦手、ゾンビ映画は敬遠していた私でしたが、ゾンビ警察小説『感染捜査』を刊行することになりました。きっかけはゾンビドラマの金字塔『ウォーキング・デッド』です。ゾンビに支配された終末世界が現代社会の不条理とリンクする展開、極限状態に置かれた人々をリアルに描いた深い人間ドラマに魅了され、私が書くなら「警察組織がリアルにゾンビと戦う姿」かしらと構想を練っていました。ちょうど海上保安庁の話も書き始めたころに「ゾンビモノは密室が盛り上がる」という真髄をとある編集者さんから聞き、「それなら舞台は船の上だ!」と海上保安庁も巻き込んで『感染捜査』は出来上がりました。

 

奇しくも執筆がコロナ禍と重なりました。本文中に出てくるゾンビ船と化したクイーン・マム号と、クラスターが発生したダイヤモンド・プリンセス号を重ねる方は多いと思います。東京オリンピックを優先する政府の措置と、作中の『ゾンビ船海上隔離措置』もどこかリンクしました。

 

現場でゾンビと対峙せねばならない隊員たちの姿は、コロナ禍で疲弊する医療関係者の姿を投影しています。「自衛隊がいるのに彼らを頼れない」現実の縛りは、尖閣諸島で中国海警局の船とにらみ合いを続ける海上保安官の姿とも重なります。議論や決断を先送りにして未来の世代に「ゾンビの後始末」を押し付ける政府や社会の姿は、福島第一原発の現状と似ています。実際に書いてみると、現在の日本社会の歪みと重なる部分が多く、ゾンビモノというコンテンツが持つ底力を改めて実感しました。

 

たかがゾンビ、されどゾンビ。

 

ある日突然、普通の人が家族や隣人を襲って食べる。咬まれたらうつる。予算不足からモンスター造形ができずジョージ・A・ロメロが苦し紛れに考えたゾンビ設定が、これほどまでに愛されるいま、『感染捜査』がたくさんの方に読まれその末席に名を連ねることができたら光栄に思います。

 

『感染捜査』
吉川英梨/著

 

【あらすじ】
お台場のレストランと東京湾上の豪華客船内で同時発生した新種のウイルス感染症。ゾンビ化する感染者を撃ち生存者を守るべきか、感染者の人権を守るべきか。東京五輪目前、未知のウイルスとの洋上の死闘が始まる!ゾンビ×海保×警察アクションノベル!

 

吉川英梨(よしかわ・えり)
2008年「私の結婚に関する予言38」でデビュー。「原麻希」「新東京水上警察」「警視庁53教場」「十三階」シリーズなど人気作多数。

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