「自分が理想とするミステリーが書けました」|道尾秀介さん新刊『雷神』
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2021/06/05

撮影/中林 香

 

’21年1月、累計発行部数が600万部を超えた、超人気作家の道尾秀介さん。緻密な構成と深い人間ドラマが魅力です。新作は「昔の自分なら書けなかった」と語る自信作!

 

作品に体験を入れることで、読者が論理的に解き明かせるように工夫しました

 

『雷神』
新潮社

 

「この小説は『龍神の雨』『風神の手』に続く神シリーズ3部作と位置づけていたので“雷神”で書くことは以前から決めていました。当初はタイトルもそろえて“雷神の○○”とするつもりでしたが、書き終えてみたらスケールの大きな話になり、このタイトルに。昔の自分には絶対書けない小説になったと言い切れる、自信作です」

 

 新作『雷神』について道尾秀介さんは開口一番、力強く語ります。

 

「物語について考え始めたのは一昨年の春くらいです。“雷神”という言葉を使うので雷を登場させたいと思い、いろいろ調べました。雷というと一般的には夏によく落ちるイメージですよね。ところが日本海側では、雷といえば冬なんです。しかも、冬の雷は夏と比べて電流の流れ方も異なり、エネルギーも数百倍大きいそうです。そんな冬の雷に打たれた人が、巡り巡って今起きている事件に絡んでくるという設定が思い浮かんだとき、これはすごい話になると自分でも思いました(笑)」

 

 主人公は埼玉で小料理屋を営む藤原幸人(ゆきひと)。妻を交通事故で亡くし、一人で娘の夕見(ゆみ)を育ててきました。そんな幸人のもとに、ある日、脅迫電話がかかってきます。実は幸人は幼いころに母を亡くし、ある事情から父と姉の亜沙実の3人で故郷の新潟県羽田上村を出た経緯がありました。いったい脅迫者は誰なのか? 秘密を抱える幸人は亜沙実と夕見と一緒に故郷に戻り、母の死の真相を調べ始めます。

 

「あらゆる登場人物の心情が絡み合い、単体では動かないはずの仕掛けが動く。それをどう表現するかが難しいところでした。
 僕は、ファクトとフィクションを合わせた“ファクション”というジャンルがすごく好きなんです。この小説も、舞台は架空の村ですが、実際の天候や実際にあった地震など事実を書き込みファクションにしました。そうすることで、読者は“自分が巻き込まれてもおかしくないかも”と思ってくれて、ミステリーに慣れていなくても興ざめせずに物語を楽しんでもらえるのでは、と考えたんです。ミステリーの部分は、作品に “あるもの” を挿入することで、読者が論理的に解き明かすという体験を可能にしました。どのような読み方をしても、それぞれのレイヤーで面白いと思ってもらえるように書ける技術が身についた実感があります。今回、自分が理想とするミステリーの形の一つが書けたと思います」

 

 詳細は省きますが、登場人物たちのちょっとした言動が、次の悲劇を引き起こす一因に。これは私たちの人生にもよくあることです。ゆえに、それらを経験したときの登場人物たちの痛みや戸惑いがリアルに胸を貫きます。

 

「神3部作の集大成なので“神様”について書くことも決めていました。“神様”は生まれて早い段階で知る言葉ですが、それが何か答えられる人はいません。この小説では現代における“神様”とは何かも書きたかった。読者それぞれの“神様”が何か、考える一助になってくれればうれしいです」

 

 道尾作品を読み続けている方は彼の新たな到達点に興奮し、初めての方は謎解きの面白さとリアルな人間ドラマに快哉(かいさい)を叫ぶはず。すべての人が読書の醍醐味を味わえる、充実感を覚える大傑作です。

 

PROFILE
みちお・しゅうすけ’75年、東京都出身。’04年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。’07年『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞(小説部門)、’09年『カラスの親指』で第62回日本推理作家協会賞、’10年『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞、『光媒の花』で第23回山本周五郎賞、’11年『月と蟹』で第144回直木賞を受賞。

 

聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より本欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。

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