スペシャルインタビュー バブル奇譚エッセイ『バブル、盆に返らず』作者が語る「今日より明日は楽しい」と思えた頃
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ryomiyagi

2021/06/29

今は昔、希望と活力に満ち、経済が回りに回っていた時代が日本にはありました。1986年末から91年頭までのバブル時代。おぼろげな歴史の一部になりつつある約5年間は、一体どのような様子だったのか? マハラジャに苗場プリンスに六本木ヒルズ……、『バブル、盆に返らず』では、バブルを謳歌した作家・甘糟りり子さんの静かな筆致で当時の風景が記録されています。毎日がパーティのようだったというあの時代を、ノスタルジーと反省をこめて振り返った本作。甘糟さんに、執筆のきっかけからバブルという時代の魅力までを伺います。

 

 

あの頃、「今日より明日は楽しい」と信じられた

 

-まず、執筆のきっかけをお聞かせください。

 

「ずっと書きたかったんです。勢いのある特殊な時代でしたから。若い世代から見ると、バブル=何となく派手っぽい時代というあいまいなイメージしかなかったり、前後の時代と混ざって認識されていたりしてますよね。経済的なことや大きいビルなんかについては記録や資料がたくさんあるけれど、街角の風景やそこから生まれたささいなエピソードは実はあんまり残っていない。SNSもありませんでしたし。経験した者の務めとして、自分の記憶が確かなうちにバブルという時代を記しておくべきだと思いました」

 

-「特殊な時代」というのは?

 

「今の方が情報もモノも豊かですが、あの頃は知らないことや初めてのものが次々に現れる時代でした。経済もずっと上向きだったから、『明日は今日よりもっと楽しいに違いない』という空気が街中に充満していました。当時はそれが当たり前だと思っていたのですが、バブルが終わってずいぶん経ってから、あれは特殊なことだったんだなあと気がついたんです」

 

今ではあり得ない? バブル期の仕事・恋愛事情

 

-当時、甘糟さんはどんな生活をされていましたか?

 

「アパレル企業で働いていたときは、仕事の打ち上げでディスコにいき、終わると会社に帰ってきて資料作りをするような生活。仕事において最優先されていたのは、やりがいでした。今ならブラック企業と言われるような働き方に誰も疑問を持っていなかったんじゃないかな。そういう働き方は正しくないとわかった今、何がどう間違っていたのかを知っておいてもいいのではないか、そう思ったことも執筆の動機になっています」

 

-恋愛の面でも、今とはまた違う価値観があったように思います。

 

「そうですね。今は芸能人が浮気をするだけで謝罪会見しなければならない風潮がありますが、当時はちょっと不誠実なぐらいがかっこいいという価値観でした。遊んでいない人、恋愛していない人はダサいと思われかねなかった。だから、みんな週末にデートの予定がないとあせるわけです。スケジュール表の穴埋めに誘ってくる男性もいたりして。私も昼と夜で別の男性と出かけたこともありました。キャンペンガールのバイトで一緒だった女の子は常に彼氏が2〜3人いて、私たちは口裏を合わせるのが大変でした。良妻賢母的な女性像が過去のものになっていく時期でもあったんでしょうね」

 

バブルにあって、今にないもの

 

-今の時代と比較して、バブルとはどんな時代だったのでしょうか?

 

「欲望が肯定されていた時代だったと思います。今は地球環境や人権や男女格差や、いろんなことが配慮されますよね。世の中、まともになったと感じます。でも、あの時代は人の欲望が正義でした。SNSがなかったことも大きな違いでしょう。今ってSNSが一種の監視の役目をしていますよね。だから、みんなおとなしい。私なんてあの頃SNSがあったら何度炎上していたことか(笑)。個々の欲望だけを強引に進めるのはよくないですけれど、人ってルールと常識だけでは疲れてしまいますよね。ダメな部分も含めて許されていたから前向きな雰囲気が生まれたのかもしれません」

 

-もし、もう一度20代、30代を過ごすとしたら現代とバブル期、どちらを選びますか?

 

「う〜ん、バブル期かなあ。日本の景気がどんどん良くなる中で大人になって、20〜30代と遊んでばかりで今になって苦労することもありますが、自分の感覚や価値観が形成されていく時期に前向きな空気の中にいられたのは幸運だったと思います」

 

-最後に、読者へメッセージをお願いします。

 

「『バブル、盆に返らず』は自分で読んでいても、本当に同じ東京?と思ってしまいます。新しい時代劇ぐらいの感じで読んでいただければ嬉しいです」

バブル、盆に返らず

甘糟りり子(あまかす・りりこ)

1964年、横浜生まれ。幼い頃から鎌倉に暮らす。玉川大学を卒業後、アパレル会社勤務を経て文筆の道へ。クルマ、レストラン、ファッションなど、都会のきらめきをモチーフにした小説やコラムに定評がある。 バブル世代の女性たちの40代を描いた『エストロゲン』(小学館文庫)や、現代に生きる女性やその家族が直面する問題を取り上げた『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』(ともに講談社文)は、読者の共感を呼びロングセラーとなっている。近著『鎌倉の家』(河出書房新社)、『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)。
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イラスト / 久木田知子
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