『征服少女 AXIS girls』著者新刊エッセイ 古野まほろ
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BW_machida

2021/08/01

オリエント、アクロイド、エクソシスト、X

 

「なんたって本格もの、です」
「私にとって最も推理小説らしい推理小説とは『犯人捜し』なのです」
「『この中に犯人がいる……』—これです」
(有栖川有栖『月光ゲーム』東京創元社、1989、カバー記載の著者のことば、一部記号改変)

 

若き日の我が師の言葉である。全く同感である。
およそミステリであれば、六何のいずれを謎とするものであろうと成立しようが、私は「誰が?」を謎とする犯人捜し、whodunitを偏愛する。私は個人的に「正義」を本格ミステリの重要な特性だと考えているので、「誰が?」が私の考える本格ミステリのコアとなるのは、むしろ必然となる。

 

何故と言って、犯人を解明・処罰し(処罰は刑罰とは限らない)、その改悛を求め被害者の思いに応えることは実質的正義に適うから。また、その実質的正義を実現するに当たって規範・道徳を守り、不公正・不相当にわたらないことは手続的正義に適うから。

 

近時、クリスティの『オリエント急行殺人事件』について、新旧二つの映画を観比べた。一九七四年のルメット版と二〇一七年のブラナー版である。クリスティが「誰が?」の極めて斬新な描き方を複数創案したのは周知のことだが、『オリエント急行殺人事件』の物語はその斬新さゆえ、実質的正義にも手続的正義にも少なからぬ問題を胎む。換言すれば、作中人物の立場に立ったとき、正義の内容にも正義の実現過程にも、まこと苦悩すべき問題がある。この点、ルメット版のフィニー=ポワロとブラナー版のブラナー=ポワロを比較したとき、後者が実に現代的・内省的・謙抑的であるのに驚く。

 

私が今般『征服少女』を書き上げることができたのは、それと『エクソシスト』(一九七三)ゆえである。本作は同様の著述経緯を有する姉妹編『終末少女』を前提としない。私が何に驚き何に触発されたか、楽しんで推理して頂きたい。

 

『征服少女 AXIS girls』
古野まほろ/著

 

【あらすじ】
悪魔によって奪われた地球を奪還すべく、方舟〈バシリカ〉が天国の少女8名を乗せて進む。しかし、悪魔の奸計か、次々と暗殺が起こり……。裏切者、密航者、そして事件の真相とは!? 論理と情動の最果てに紡がれる、本格青春ミステリ叙事詩!

 

古野まほろ(ふるの・まほろ)
東京大学法学部卒業。2007年、『天帝のはしたなき果実』で第35回メフィスト賞を受賞し、デビュー。近著は『叶うならば殺してほしい ハイイロノツバサ』。

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