「他人と口を利かない国」――現代イギリスの「孤独事情」から日本が学べること
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BW_machida

2021/09/30

 

イギリスでは7人に1人が孤独を感じているという。65歳以上の5人に2人がテレビかペットを一番の友人と感じているとの報告もある。ロンドンの移民、難民、そして障がい者にとっても孤独は最大の課題だ。英国家庭医学界によれば孤独は肥満や習慣的な喫煙以上に身体に悪影響を及ぼすらしい。孤独による体調不良は従業員の生産性を低下させ、雇用主は年に約3560億円もの損失を被っている。孤独で生じる経済的損失は約4・8兆円にもなるというから驚きだ。

 

とはいえ、イギリスでは長いあいだ「孤独は無縁」と思われていた。この国には、街ごとに教会があるし、通りには18世紀頃に生まれた「パブリック・ハウス(公共の家)」を起源にもつ「パブ」もある。パブは集会場で社交場であり、ときには結婚式場にもなる。人びとは何世紀も前からここでビールを飲みながらおしゃべりに興じてきた。

 

しかしイギリスの事情は変わってきているようだ。健康志向の高まりでアルコール離れが進み、パブへ通う人は減りつつある。ライフスタイルの変化は教会にも影響を及ぼした。かつては人々の生活と共にあったはずの教会に通う人も少なくなった。ある調査によるとイギリスは「他人と口を利かない国」になりつつあるという。

 

孤独が社会に及ぼす影響はすでに無視できない状況にある。孤独の問題は政策的な対応が必要だ。こうした背景から2018年1月、イギリスに世界で初めて「孤独担当大臣(Minister for Loneliness)」が設けられた。このニュースは瞬く間に世界中に伝わり、注目を集めることになる。孤独担当相の設置はイギリス国内ではおおむね好意的に受け止められたものの、「偽善だ」とする批判的な意見も寄せられた。

 

とはいえ、イギリスには孤独な人に手を差し伸べる仕組み自体はずいぶん前から存在している。政府の施策を待つまでもなく、人びとは自ら動き出していたのだ。たとえば高齢者からのヘルプを求める電話に対応した「シルバーライン」。育児中の母親の思いから始まったカフェでの「おしゃべりテーブル」。「メンズ・シェッド(男たちの小屋)」では定年退職を迎えた男性たちがDIYを満喫している。人びとは知恵を働かせ、仲間を募り、孤独と戦う術を探し続けてきた。

 

もしかすると、新型コロナウイルスは「他人と口を利かない国」になりつつあるイギリスに拍車をかけたかもしれない。繰り返される都市封鎖は人をより孤独な状況へと追いこみ、人びとはこれまで以上に一人ぼっちの寂しさに耐え忍ばなくてはならなくなったから。それでも、希望はある。コロナ禍では政府への医療ボランティアへの呼びかけに75万人もの人が名乗り出た。それだけではない。イギリスでは75%もの人が「もっと人とじかに話したい」と願っているのだ。多くの人が本当は人と顔を合わせて、笑ったり話したりしたがっている。これは日本にも当てはまるのではないだろうか。本書で取り上げられるのは主にイギリスの孤独問題だが、この本は日本が抱える孤独の問題にもヒントを与えてくれるはずだ。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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