キッチンをひとつの部屋と考えてみよう――幸せな暮らしを叶えるためのアイデア
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BW_machida

2021/10/06

 

思いがけない転換点を迎えてから、家のなかでの過ごしかたがすこし変わった。かつては手早く済ませていた手洗いも、著者のいうように今は「日々の小さな祈り」の行為になった。キッチンに立つ回数が増えた人もいるだろうし、家時間が増えたことをきっかけにタオルや調理器具を新調した人もいるだろう。

 

かく言う私も、その一人だったりする。旅行気分を演出する特別なバスグッズも店頭でよく見かけるようになった。こうしてみると、私たちの暮らしにとって水の空間がいかに大切かよく分かる。歯を磨いて顔を洗い、料理をし、洗濯機をまわして…朝起きてから夜眠るまで、私たちはじつに多くの時間を水周りで過ごしている。

 

水周りは、繰り返される日常とぴったり重なっている。心身ともにくつろげるバスタイムを楽しみにしている人は多いし、キッチンは自分のお腹を満たすだけでなく、家族や恋人の健康を願って料理をする場所でもある。水が生活の中心にある以上、幸せな暮らしを叶えるためには、やっぱり水周りにこだわりたい。

 

とはいえ、水周りはなにかと手間のかかる気苦労のおおい場所でもある。使っては片づけて、汚れたらきれいにして。物が多いから散らかりやすいし、なんといっても、こまめな掃除に気が滅入る。そんなときは、ぜひ著者の言葉を思い出してほしい。

 

「手と心をむけた水周りでの時間は、守られている、愛されているという記憶として蓄えられ、確かな力になる。水周りを育て、ととのえることは大切な人の力になれる近道のひとつなのではないでしょうか。」

 

そう語る著者の言葉からは、暮らしへの愛情が伝わってくる。では理想的な水周りとはどんなだろう。たとえば、キッチン。ここはすでに女性だけの領域ではない。本書には、仕事と家事が溶けあう現代こそ取り入れたいキッチンのアイデアが満載だ。

 

「朝一番のキッチン、そして1日の終わりに照明を絞ったキッチンへスツールをひょいと持ち込んで、ケトルの湯気を眺めながら仕事のアイデアなどを反芻する時間がとても好きです。」

 

著者のキッチンをひとつの部屋と考えてみる、というアイデアはぜひ真似したい。リビングとはまた違うアートを飾ったり、旅行先で手に入れた工芸品を置いてみたり、間延びしがちなキッチンの壁面を彩るアイデアはどれも勉強になる。キッチンを作業場と捉えない、そんな過ごしかたを目指してみるとインテリアはもっと自由になる。ここはひとつの部屋なのだから照明にこだわって、昼と夜で空間の表情を変えてみるのもいいかもしれない。

 

「住む人を幸せにするインテリア」を紹介する本書には、リフォームやDIYで自分だけのこだわりの水周りを叶えた人が数多く登場する。オシャレで機能的、住む人の個性が表れた空間は、写真を見ているだけでも楽しい。

 

『心をととのえる水周りのインテリア』 加藤登紀子/著 

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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