ブラックホールは実物瓜二つ…画像物理学者が語る映画『インターステラー』
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ryomiyagi

2021/11/05

 

 

2014年に公開されるや、「今世紀最高のSF」と称賛され続けている映画『インターステラー』だが、感想を同じくする方々は、おそらく一度ならず二度三度と同映画を鑑賞しているに違いない。かくいう私も、小説版も読み合わせた上で、幾度となく鑑賞した(個人的には)名作中の名作と言えるSF映画だ。

 

そんな映画『インターステラー』を、本物の物理学者が解説する……。なんと甘美なタイトルだろうか。
先日手に入れた『物理学者、SF映画にハマる』が、そんな垂涎の一冊だった。
著者は、理学博士であり、かのスティーヴン・ホーキング博士にも師事した宇宙論の専門家・高水祐一氏。

 

まず真っ向から「科学的に無理です」と言い切っても、何も生産性がないので、まじめに科学的に論じるのとは、少し違った立場を取りたいと思います。それは、その作品で扱われているテーマをきっかけとして、科学的にはどういう風に考えられているとか、科学者の目線で好意的に作品を解釈するとどうなるかといったことを、個人的に論じてみようということです。作品から離れる部分も多々出てきます。もちろん私は、映画製作の専門家でもなければ、映画評論家でもありません。あくまで科学的な目線で見たとき、SF作品をきっかけに何か科学に関して語れるところがあるのではないかということです。

 

ふむふむ。本書の冒頭には、そこはさすがに現役の科学者であるだけに、SF映画的なむやみに期待値を引き上げるような言葉は踊ってはいない。しかし、そこがまた「SF映画と科学をいかにすり合わせようか」と秘かに目論む私などの期待値を引き上げてくれる。

 

目次を繰ると、著者はまず、数多有るSF映画を「時間」と「宇宙」という2大テーマでくくっている。そしてそこには、それぞれのテーマに即した『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『デジャブ』『TENET』『ターミネーター』『ゼロ・グラビティ』『ファースト・マン』『インターステラー』『スター・ウォーズ』などなど、言わずと知れたSF映画の名作が並び、第1章は「タイムトラベルの可能性と限界」などと私には文字が躍って見えた。
この目次を見るだけでワクワクしてくる。
なかでも映画『インターステラー』の項目には、「ワームホール」「ブラックホール」「高次元」などなど、目を見張る文言が並ぶ。文字量に限りの有る記事という言い訳で、ここでは独断と偏見をもって映画『インターステラー』に特化させていただく。

 

次に、太陽系を離れた宇宙トラベルものとして映画『インターステラー』を紹介します。(中略)
まず、『インターステラー』でも宇宙船には『オデッセイ』で描かれていたような、回転して遠心力を発生させる機構がありました。さらに、長時間の飛行なので、コールドスリープのような装置も搭載されているようです。私はこの技術の現状を完全に把握しているわけではありませんが、数年前にアメリカの大学で、ゼブラフィッシュと呼ばれる淡水魚の胚を無事に解凍することに成功したというニュースがありました。また、冷凍した生殖細胞を解凍して用いるということでは、不妊治療技術として私たちの日常にすでにあります。受精卵と実際に生きている生体ではクリアしなければならないハードルは大きく異なるはずですが、哺乳類や人類を冷凍させて、再び解凍する技術もきっと遠くない将来実現可能となるかもしれませんね。欧州宇宙機構は、コールドスリープ技術を20年以内に実現したいともいっています。

 

と、まずは星間飛行に関するハードルの一つを「クリアできる」と、美味しい言葉を投げかけてくれる。ただし、この星間飛行を為し得るには、何光年、何十光年、何万光年という気の遠くなるような距離を駆け抜ける新たな航法が必要となるし、それらを駆使したとしてもなお、ワームホールなどの偶発的な要素が不可欠となる(に違いない)。

 

この非現実的な長距離移動を可能にしないと、映画のような太陽系を超えた銀河世界のSF作品は成立しません。多くは、ワームホールを用いたショートカットや、ワープと呼ばれる瞬間移動のような仮想の技術が設定として用いられています。それでいうと、この映画は、うまいこと太陽系内にワームホールの入口があれば、という設定でこの点を乗り越えています。

 

さすがに同映画は、科学的監修としてノーベル物理学賞を受賞したキップ・ソーン博士を迎えているだけあって、星間飛行をとても上手く表現している。
そして映画の主人公は、ブラックホールへの突入という破滅的とも思える道を選択する。

 

そのブラックホールの画像は、まさにキップ・ソーン博士が実際にブラックホールまわりの光の軌道を一般相対性理論で計算した画像をもとにしており、非常にリアルです。彼は、とてもまじめな研究者で、この映画のために用いたコード開発(光がどうように伝播して見えるかについての計算)の手法を、それ自体で学術論文にもまとめています。すごいですね。2019年には人類が初めて視覚化したブラックホールの画像が公開されましたが、そのときには、この映画のブラックホールの画像が比較として紹介されるほど正確にできています。

 

そして最後に、高次元と言う想像力しか及ばないテーマに物語は進んでいく。
ここまでは、すでに胚レベルでは実証済みのコールドスリープだの、同じくすでに画像として捉えることの叶ったブラックホールだのと、ifではなくなった現象(ワームホールは理想的に配置されている)が描かれているが、高次元に至っては未だ理論でしかない。

 

とにかく、ブラックホールの内部から彼は無事、特異点のデータを地球に送信します。
ここで突然、ブラックホールの内部に立体構造物が登場します。イメージとしては、このデータによって方程式が解けると、統一理論が完成し、高次元の視点が持てるということをいっています。
ここで高次元の空間から、映画冒頭の幽霊の部屋の設定がリンクしてきます。冒頭では主人公の家で何もないところから砂が落ちてきたり、本棚から書籍が規則的かつ勝手に抜け落ちたりするのですが、実は超立方体の空間があの部屋とつながっていて、5次元方向を使って、特異点のデータをモールス信号で自分の娘に伝えるというのです。

 

まだ映画『インターステラー』をご覧になっていない方々には、極めて不親切なネタばれとなっていますが、そんなご批判も覚悟のうえで語りたくなるような科学者の言葉が、本書には並んでいます。
「特異点」とか「統一理論」とか、この記事ではご案内できないままですが、本書『物理学者、SF映画にハマる』(光文社新書)は、さらに深く深く、初見では理解できない物理学上の理論を、エンターテインメント的な視点で読ませる興味の尽きることない一冊でした。
読書の秋に、酒のお供に、語らいの夜長に、間違いの無い一冊です。

 

文/森健次

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