『かすてぼうろ 越前台所衆 於くらの覚書』著者新刊エッセイ 武川佑
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2021/11/25

戦国時代の飯は「貧相」か?

 

料理史において、戦国時代は明確に「中世」である。日本料理に欠かせない醤油が生まれるのは江戸時代。地引網漁で多彩な魚を引き揚げる漁法の普及も江戸時代。竈にカポッとはめて米を炊くいわゆる「羽釜」の発明も江戸時代である。戦国時代の庶民は腹を満たすため一日五〜六合の米を食べていたというが、もちろん白米であることは珍しく、稗や粟、麦、玄米が混ざったものだった。

 

現代の私たちからすれば、戦国時代の食文化は非常に貧相なものだった。それが通説だ。では当時の人々は本当に自らの食文化を「貧しい」と考えていたのだろうか? 執筆にあたり、私は「たぶん違うのではないか」と考えた。やっとありついた飯を美味しく食らい、そして明日の飯を楽しみにしていたのではないだろうか。戦乱の世において明日をも知れぬ命だからこそ、生きることに直結する食を、精一杯楽しんだのではないだろうか、と思ったのだ。

 

そして少女「於くら」が生まれた。越前国の貧しい百姓の子で城働きの下女である彼女が人に寄りそう料理を作るため、大名の台所衆(料理人)を目指す物語。身分制社会が確立し、「士」が大名の台所の役目も担うようになった江戸時代では、そのようなストーリーは難しいかもしれない。しかし戦国時代の混乱期ならば、於くらのような人物もいたかもしれない。いたらいいな、という願いをこめた。

 

執筆の最中はとにかく楽しく書いた。正直者で素直な性格の於くらという少女を大好きになり、「仏の茂助」と称された堀尾吉晴の心優しい殿ぶり、堀尾とはまた違う結城秀康の好漢ぶりを慕わしく思った。書き終わるのがただただ惜しかった。「わしも出してくれい」とばかりに織田信長や明智光秀といった歴史上のスターまでも出てきたのは作者ながらに愉快だった。この物語を読んで、殺伐とした戦国時代の新たな一側面を発見してもらえたら嬉しく思う。

 

 

『かすてぼうろ 越前台所衆 於くらの覚書』
武川佑/著

 

関ヶ原前夜。山深い田舎で育った十三歳の於くらは、越前府中城の炊飯場で下女働きを始める。夜な夜なつまみ食いをしに板間へやって来る城主・堀尾吉晴に料理の才を見出された於くらは、持ち前の機転と思いやりで、天下人の心までをも動かしていくー。

 

武川佑(たけかわ・ゆう)
1981年、神奈川県生まれ。2017年のデビュー作『虎の牙』で第7回歴史時代作家クラブ新人賞を受賞。2021年、『千里をゆけ』で第10回日本歴史時代作家協会賞作品賞受賞。

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