特定の上司のお陰で生き残っている人に使えるインテリ悪口「コーカサスバイソンじゃん」
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ryomiyagi

2021/12/15

 

2021年12月22日発売の書籍『教養(インテリ)悪口本』(堀元見著・光文社刊)より、今日から使えるインテリ悪口を抜粋してお届けします。イラッときたときやモヤモヤしたときに使って、ディスりたい気持ちを教養に変えてみてはいかがでしょうか。

 

コーカサスバイソンは、既に絶滅してしまった生物だ。
読んで字のごとく、コーカサス地方にすんでいたバイソンである。そう言われても、「コーカサス地方」も「バイソン」もあまりピンとこない人も多いだろう。僕もだ
「コーカサス地方」は、ロシアの領土の一番南西のあたりにある。ジョージアとかアゼルバイジャンとかのあたり。東欧なんだか中東なんだかよく分からんエリアである。こういう煮え切らないエリアはよく分からなくて困る。日本でいうと奄美大島がそれだ。鹿児島なんだか沖縄なんだかよく分からん位置にあるせいで、いつもどっちだか分からない。今調べてみると鹿児島だった。なるほど。でも島の名物はリュウキュウイノシシらしい。いやどっちやねん。やっぱりよく分からない。困りものだ。コーカサス地方もそういう困ったエリアである。多分。
バイソンは、ウシ科の動物だ。強そうでカッコいいウシ。それ以上の理解は必要ないと思うので、カッコいいウシなんだなぁと思ってもらえれば大丈夫。多分。

 

そんなひたすらボヤッとした生物・コーカサスバイソンが絶滅した理由だが、なんとロシア革命である。
「革命が起こって王が殺された」という話はよく聞くが、「革命が起こってバイソンが絶滅した」という話は珍しい。「風が吹けば桶屋が儲かる」的な不思議さがある。
どういうことか、説明しよう。

 

まず前提として、ヒト(ホモ・サピエンス)のあるあるネタを1つ。「大型動物を絶滅させがち」である。これはかなり強い「ヒトあるある」で、地球上の至るところで、人類史のほとんどの期間で発生してきた。「テスト前に掃除始めちゃう」を超える万人が共感するあるあるである。
ヒトは、4万年くらい前にオーストラリアに上陸するやいなや、生息していた大型動物を全滅させた。オーストラリアにはカンガルー的な大型動物がたくさんいたのだが、ほとんどはヒトに食い尽くされて絶滅してしまった。カンガルーはほぼ唯一の生き残りである。
したがって、「世界で最も凶悪な動物は何か?」と聞かれたら、「ヒト」と答えるのが正しい。数え切れないほどの生物種を絶滅させてきたヒトは、スズメバチやサメやライオンなどかわいく見えるほどの凶悪性を持つ。
ということで、ヒトは基本的に大型動物をすぐ絶滅させるので、コーカサスバイソンも絶滅しそうだった。19世紀初頭には300頭くらいしか存在せず、かなり虫の息だったと思われる。
「マジで絶滅する5秒前」みたいな状態だったコーカサスバイソンを救ったのが、時のロシア皇帝アレクサンドル1世である。

 

アレクサンドル1世は「絶滅しそうな動物は保護せねば!」というすごくSDGs 的な考えを持った皇帝だったらしく、21世紀型人材といった感じである。18世紀生まれだけど
先取り21世紀人材であるアレクサンドル1世は、「コーカサスバイソンを保護すんぞ!」ということで、コーカサスバイソンの生息地を丸ごと保護区にした。「お前ら絶対ここで猟するなよ!」という皇帝命令を出したのである。
しかし、それだけでは完璧ではない。密猟のリスクがある。バイソンの毛皮や角は色々と利用価値があるので、保護区にしても密猟しにくるヤツはいる。
しかも、密猟者を捕まえるのは結構難しい。コーカサスバイソン生息地の近くには人も住んでおり、保護区の近くをうろついていても「いや、俺ら近くに住んでるんですよ。通りかかっただけですよ」という言い訳ができてしまう。
困ったものだ。どうすればいいのだろう? 現代の常識に生きる僕らからすると、手詰まりに思われる。せいぜい「なるべく頑張って密猟者を現行犯で捕まえる」ぐらいしか思いつかない。
しかし、アレクサンドル1世は21世紀型人材である以上に、18世紀生まれの男だ。現代の僕らからすると想像もつかないようなアバンギャルドな手段を使った。
近隣住民を全員追放したのである。

 

すごい話だ。「この辺バイソンちゃんがすんでるからお前ら出て行って!」という要求、聞いた住民はさぞビックリしただろう。
「道路を引くため」とか「他国との戦争のため」とかならまだ諦めがつきそうだが、「バイソンのため」は納得できないと思う。
村の住民、「俺らよりバイソンの方が優先順位高いんかい」と総ツッコミしたに違いない。
残念ながら、当時のロシアはナポレオンを撃退したばかりで勢いに乗っているバチバチ君主制の国であり、「王様の言うことは〜、ぜった〜い!」的な感じだったので、こういうことも起こり得た。「1番の住人が~、バイソンのために~、出ていく~!」という王様の命令が下ることもある。合コンでも、歴史上でも、王様ゲームはいつだって理不尽だ。
けれど、こういうバチバチのワンマン経営はしばしば圧倒的な成果を出すものだ。絶滅の危機に追い込まれていたコーカサスバイソンはみるみる個体数を増やしていった。

 

1914年、コーカサスバイソンの個体数は737頭まで回復したという。保護はすごく効果があった。人権を無視してバイソン権を保護した甲斐があった
こうして無事にコーカサスバイソンは絶滅を免れた……となれば美談だったのだが、現実はそうならなかった。ロシア革命が起こったのである。
ロシア革命で起こったことをめちゃくちゃテキトウに言うと、「革命左翼オジサンたちが王様を殺して新しい国を作った」である。この革命によって、最終的にはソビエト連邦が成立する。
ロシア革命発生時の皇帝・ニコライ2世は、コーカサスバイソンの保護をちゃんと続けていたのだが、ロシア革命によって無惨にも殺されてしまった。
こうなると困るのはコーカサスバイソンである。近隣住民を追い出してまで保護するという箱入り娘……箱入りバイソンだったのに、いきなり世間の荒波に放り出された形だ。
残念ながら、ずっと保護されてきた箱入りバイソンたちが厳しい世界で生き残るのはとてもムリだった。バイソン猟にやってきた人たちに捕まりまくったし、なんなら革命家たちに「王の仲間」として目の敵にされて、1 9 2 5年に絶滅した。ロシア革命が1917年なので、わずか8年で絶滅したことになる。世間の荒波は厳しい。
ということで、「コーカサスバイソンじゃん」というインテリ悪口は、「特定の上司に気に入られて保護されてるお陰で生き残ってる人」に使ってほしい。「あいつの保護がないとお前は一瞬で絶滅するぞ」というメッセージを込めて。

 

<使用例>
「島村さん、サボりまくってるのに、なんで怒られないの? めっちゃ腹立つんだけど」
「あの人、課長のお気に入りなんだよね。“自由にやらせてあげて”って言われてるらしくて、皆あまり口出しできないみたい」
「マジで? コーカサスバイソンじゃん」

 

参考文献/プロジェクトチーム編・WWF Japan 監修『失われた動物たち』(広葉書林)/ロバート・シルヴァーバーグ『地上から消えた動物』(佐藤高子訳・早川書房)/ Semenov U.A, 「The Wisents of Karachay-Cherkessia」(KMK Scientific Press『ソチ国立公園議事録』Issue 8, 2014)

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