『きりきり舞いのさようなら』著者新刊エッセイ 諸田玲子
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2021/12/28

大いに笑って、灰さようなら

 

此の世をばどりゃお暇せん香の 煙と共にはい左様なら

 

これは江戸の戯作者、十返舎一九の辞世の句とされています。真偽はともあれ、弥次さん喜多さんの滑稽な道中記『東海道中膝栗毛』で絶大な人気を博した一九にはまさにぴったりの辞世。でも実際の一九は大酒飲みの女好き、宵越しの銭は持たずいつも借金取りに追われ、お調子者かと思えばむっつり無口の短気者……と、つかみどころのない人物です。

 

といっても、本書に登場する葛飾北斎やその娘のお栄も人後に落ちない変人ですから、一九の娘の舞が日々〈きりきり舞い〉をさせられるのもやむをえません。

 

そんなにぎやかな一九一家にふりかかる騒動の数々を笑いと涙で描いたのが「きりきり舞い」シリーズです。第一作目は〈一九にまつわる謎〉、第二作目は〈舞の恋の行方〉、第三作目は〈東海道珍道中〉ときて、本作は江戸の大火から灰さようならまでのオハナシ。中身は読んでいただくとして、今回も、老婆とお狐様、火事とお化けと盗賊に、舞はとことん翻弄されます。

 

火事と喧嘩は江戸の華ーといわれるように、江戸は数えきれないほどの火事で多大な被害を受けてきました。十万を超える焼死者を出した明暦の大火をはじめ、明和、文化の三大大火につづくこの文政の大火も、神田佐久間町から燃え上がった火は北西風にあおられて江戸の町々へ延焼、三十七万の家屋が焼失、三千近い焼死者を出しました。

 

それでも、悲惨な災害を乗り越えて、江戸庶民はたくましく明日へ向かって歩き出します。もちろん舞や舞の家族も負けてはいません。老病に苦しむ晩年の一九でさえ、一念発起して、人々をあっと驚かす大博打をしてのけます。

 

さあ、それはなんでしょう?
大団円を迎える本作で大いに笑って、皆さんもコロナ禍の憂さを吹き飛ばして下さい。

 

『きりきり舞いのさようなら』
諸田玲子/著

 

【あらすじ】
文政の大火で焼け出された人気戯作者十返舎一九一家。娘の舞を頼りに、亭主の尚武、養子の丈吉、継母のえつ、葛飾北斎の娘お栄たちは、命からがら逃げ出して、無一文から出直す悪戦苦闘の日々。幽霊騒ぎ、盗難騒ぎ、尽きない騒動に舞の苦難は今日も続く。

 

諸田玲子(もろた・れいこ)
1954年静岡県生まれ。1996年『眩惑』でデビュー。2003年『其の一日』で吉川英治文学新人賞、07年『奸婦にあらず』で新田次郎文学賞、18年『今ひとたびの、和泉式部』で親鸞賞を受賞。

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