最初から負けることが決まっていた? 『WHAT HAPPENED』#5ヒラリー・ロダム・クリントン
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2017年9月にアメリカで刊行されたヒラリー・クリントン前民主党大統領候補の最新自伝『WHAT HAPPENED』(邦題『WHAT HAPPENED 何が起きたのか?』高山祥子訳)はたちまちミリオンセラーとなりました。このタイトルが示すように、あの歴史に残る大統領選を事細かに振り返った内容です。今回、邦訳版の刊行に合わせ、520ページ及ぶ長大な内容からハイライトを紹介していきます。

 

 

最初から負けることが決まっていた?

ヒラリー・ロダム・クリントン著『WHAT HAPPENED 何が起きたのか?』より

 

何人かの識者によると、わたしの選挙運動は最初から敗北が決まっていたという。候補者としての弱さと、世界を席巻する怒れる同族的人民主義の波にアメリカが飲まれていたせいだ。

 

確かにそうだったかもしれないが、一般投票ではわたしが三〇〇万票近くで勝ったことを忘れないでほしい。二〇〇四年にジョージ・W・ブッシュがジョン・ケリーに勝ったときとほぼ同じ票差だ。わたしがアメリカ国民と歩調が合わなかったというなら、これはどうしてなのだろう。

 

だが、わたしの政治への姿勢と、二〇一六年に国民が求めていたものとが、基本的に相容れなかったというのは公正な見方だろう。国民が崩壊した政治システムに幻滅し、政治家に絶望しているところに、いくら素晴らしい計画や提案を持ち出しても無駄だ。国民が怒り、責めるべき誰かを求めているとき、仕事を作り賃金を上げるための提案など聞きたくはないのだろう。ただ、怒っていたいだけなのだ。

 

同じ状況が、個人同士の関係にも見られる。わたしの友人はよく、問題について話したり同情したりせず、すぐに解決しようとするといって、配偶者に苛立っている。わたしも多くの有権者に対して、そうだったのかもしれない。感情を表わさず、すぐに解決しようとした。

 

そのうえで、わたしは多くの人が─それこそ何百万人もが─わたしのことを嫌いなのだという結論に達した。これがどんな気分のものか、想像してみてほしい。受け入れがたいことだった。だが避けることはできない。

 

上院議員にしろ国務長官にしろ、仕事をするとき、わたしは高く評価される。だが仕事を求めて競い合うとなると─選挙に出馬するとか─事態は一変する。不正直で信頼できないというイメージは偽りだったと分かっても、悪い余韻は消えない。わたしはいつでも目立たないようにして働き、結果で評価してもらおうとした。たいていはそれでうまくいったのだが、今回はだめだった。

 

トランプに入った票は、わたしに投票したくないという票で、彼への投票ではなかったようだ(九月のピュー・リサーチ・センターの世論調査では、五三パーセント対四四パーセントだった)。出口調査では、かなりの人数が、トランプは不適任あるいは大統領になるに足る人物ではないと言い……それでも彼に投票をした。全有権者のうち、彼が不適任だと言った六一パーセントのうち、一七パーセントがそれでも彼に投票をした。彼は大統領になるには足らない人物だとした六三パーセントのうち、一九パーセントが彼に投票した。出口調査では全投票者の一八パーセントはトランプにもわたしにも否定的だったが、四七パーセント対三〇パーセントで彼に票を入れた。わたしに対する反感のほうが、彼が不適任だという思いを上回ったのだ。

 

これは、意外ではなかった。ギャラップ(訳注:世論調査およびコンサルティングを行う企業)が選挙運動の数ヵ月間に国民がわたしに関して見聞きした単語を集計した。まずは絶対的な単語があった。「電子メール」だ。それよりはるかに小さいが、やはり目立っていたのは、「嘘」と「スキャンダル」だった。面白かったのはトランプに関する単語で、「移民」と「メキシコ」が「仕事」や「貿易」よりも多かったことだ。

 

わたしに対する否定的な感情が、全て避けがたいものだったとは思わない。国務省を離れたときは、高い支持率を持っていた。これは政治的攻撃と否定的な報道を受けた結果だ。だが、そうした騒音を消し、自分に投票してもらうように説得するのが、わたしの仕事だったはずだ。それができなかった。

 

そう、わたしには候補者として欠点があった。そう、確かに世界的なポピュリズムの波と、アメリカには三期連続を避ける伝統があった。そうした組織的な要素は、突然出てきたものではない。それらはおそらく、対照的な政策や振る舞い、公職におけるわたしの履歴やオバマ政権での業績以上に、選挙戦に影響を及ぼしていたのかもしれない。それでもなお、ずっと逆風にさらされていたにもかかわらず、二年間のあらゆる統計で、わたしはかなり有利な位置にいた。

 

終盤戦、二回の全国大会と三回の討論会を記録的な数の国民が見た結果、わたしは確実にリードしていた。ニュース解説メディアVOXのエズラ・クラインは「近代政治史における最も有効な討論会での弁舌だ」と言った。わたしは四年前のオバマ大統領よりも強い立場にいたのだ。こうした世論調査が全て間違っていたのか、あるいは選挙戦終盤に何かがあって、鍵となる州の有権者の気持ちが変わったかのどちらかだ。

 

世論調査が間違っていたのだろうか? ウィスコンシン州の、特に最後の調査は見当違いだったと、今では分かっている。トランプ支持の有権者が調査に協力するのを拒否したため、彼らの意見が反映されず、正直な意見を言わなかった者もいた。

 

だが全体としては、二〇一六年の全国世論調査は二〇一二年よりも多少は正確だった。二〇一二年、最終的な調査の平均は、オバマ大統領の実際の勝率を三・一ポイント低く見ていた。二〇一六年には、〈リアルクリアポリティックス〉というウェブサイトによると、最終的な勝率は一・二ポイントはずれていた。これほど接戦の選挙戦では、なんでもないことではない。だが、とんでもない間違いとも言えない。

 

だから、世論調査が間違っていたわけではない。選挙運動を通して、わたしがリードしているという見込みは、多少の誇張はあったかもしれないが、まったくの見当違いではなかった。最後の最後に、重要で決定的な何かが起きたと考えざるを得ない。

 

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ヒラリー・ロダム・クリントン /髙山祥子 訳

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