ロシアによる選挙介入の真実 『WHAT HAPPENED』#8ヒラリー・ロダム・クリントン
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2017年9月にアメリカで刊行されたヒラリー・クリントン前民主党大統領候補の最新自伝『WHAT HAPPENED』(邦題『WHAT HAPPENED 何が起きたのか?』高山祥子訳)はたちまちミリオンセラーとなりました。このタイトルが示すように、あの歴史に残る大統領選を事細かに振り返った内容です。今回、邦訳版の刊行に合わせ、520ページ及ぶ長大な内容からハイライトを紹介していきます。

 

 

ロシアによる選挙介入の真実

ヒラリー・ロダム・クリントン著『WHAT HAPPENED 何が起きたのか?』より

 

選挙戦の最後に床が落ちた、第二の大きな要因は、わたしの選挙運動を妨害しトランプを当選させようという、ロシアの作戦行動だった。元CIA局長代理マイク・モレルは、それを「政治上、9・11に等しいもの」と言った。

 

ロシアがジョン・ポデスタから盗み出し、〈ウィキリークス〉に提供した電子メールによって、コミーの手紙の件の前にも、クリントンや電子メールという単語が報道にあふれた。フェイク・ニュースがこれに加わり、有権者がスキャンダルと不信に混乱する事態となった。火がなくても、息が詰まるほどの煙が立った。

 

選挙不正があったという直接的な証拠がないため、ロシアの介入は結果に何の影響も及ぼさなかったと主張する批評家もいる。これは戯れ言だ。クレムリンの情報戦争行為は、悪意ある政治資金管理団体が大々的に宣伝活動を行なうのとほぼ同じで、当然影響力があった(現実の改竄行為にこだわる人にしてみたら、ロシアによる我々の選挙システムへの侵入が次々と明らかになるのだから、政府や国務省はありもしない不正投票の流行ではなくこちらを調査すべきなのかもしれない)。

 

統計学者ネイト・シルヴァーのウェブサイト「FiveThirtyEight.com」はグーグルでの検索ワードを、どれだけ〈ウィキリークス〉の情報が実際の有権者に浸透したかを測る指針にしている。そこで─コミーが一〇月二八日に手紙を送った直後は除いて─選挙戦の終盤には、FBIよりも〈ウィキリークス〉についての検索が多かったことが分かった。主要メディアがもっぱらコミーの記事を載せたので、それについて検索する必要はなかったのだ。だが〈ウィキリークス〉の情報は、検索者をウサギの巣穴の奥深くへ送りこむことがある。

 

グーグルでの〈ウィキリークス〉に関する検索は、ペンシルヴェニア州カンブリア郡やウィスコンシン州アップルトンのような、投票先の決まっていない有権者の多い地域で多かった。言い換えれば、多くの人々がオンラインで、投票前におかしな主張や陰謀説の真相を知りたいと思っていたのだ。だが彼らが発見したのは、さらなる誤情報やロシアによる宣伝が多かった。

 

コミーの手紙とロシアの攻撃が組み合わさって、致命的な影響が出た。シルヴァーは選挙後に、これら二つの要因がなかったら、フロリダ州、ミシガン州、ウィスコンシン州、そしてペンシルヴェニア州で、わたしが二ポイント差で勝っただろうと結論づけた。だが実際は、わたしはこれら四つの州全てで、平均するとわずか一ポイントにも満たない差で負けた。ミシガン州などは〇・二ポイント差だった。

 

これらはまったく沈鬱で腹立たしく、不満足なことだ。外部からの介入によって、なぜ充分な票が終盤にトランプ側に動いたのかが説明できる。だがそもそもなぜ選挙戦が、いくつかの州での最終的な動きが違いを生むほどの接戦だったのかという説明はできない。六二〇〇万人の人々─その多くが、トランプはこの職に不向きだと認めた─が、なぜ大統領に不適任な人物に票を入れたのか、説明にはならない。これは今現在の我が国を理解するのに、非常に重要な問題なのかもしれない。

 

予備選挙でトランプに投票した一三三〇万人の共和党支持者から始めよう。これらは最も手堅い支持者だったと言っていい─トランプが五番街に立って誰かを撃っても、失わない票だ。一三〇〇万人は、大半の国民が不適任だと考える人物を強力に支持するには大変な数だが、これらの人々は共和党の予備選挙投票者の半分以下であり、総選挙投票者の一〇パーセント以下だ。いかにしてトランプはそもそもの支持母体を超えて、もっと大きな層で支持を固めたのだろう。

 

トランプ懐疑主義者が彼の陣営に取りこまれた理由としては、わたしに対する敵意以外に、純粋な党派心もあっただろう。「民主党支持者は恋に落ち、共和党支持者は歩調を合わせる」と、古くから言われている。これが、二〇一六年にもまた真実だと証明された。わたしは民主党有権者の八九パーセントを獲得した。何人かの勇敢な「断固としたトランプ不支持」の例もあったが、トランプは共和党有権者の九〇パーセントを獲得した。その多くは、予備選挙では他の候補者を希望していて、女性問題も含めて彼の行動にうんざりしていた。それでも肝心なときになると、名前の横にある「R」(共和党「Republican」のR)がものをいった。政治における根深い党派心だ。

 

二〇一七年のフランスの選挙では、対照的なことが起きた。保守派と社会主義者が党の壁を超え、中間政党のエマヌエル・マクロンを後援して急進主義のマリーヌ・ル・ペンを抑えた。フランスでは、愛国心が党派心を負かしたのだ。フランスの有権者たちはアメリカでの出来事を見て、自国で起きないようにしたのだという分析者もいた。

 

オランダでも同様に、右翼の国家主義者ヘルト・ウィルダーズが落選した。もちろん、最もたくさん票の入った候補者が選挙に勝つのであれば、それでいい。

 

なんてことだろう。もしアメリカの有権者たちが、プーチンがトランプのためにしていたことをもっとよく知っていれば、結果は違ったのだろうか? わたしに言えるのは、アメリカ国民がフランスやオランダと同じぐらい愛国心が強いと信じるということだけだ。

 

党派心というのは強力だが、それがトランプ支持の唯一の動機だったとは言いづらい。先に述べた通り、変化を求める気持ちも重要だった。出口調査では、投票者の三九パーセントが、変化をもたらす能力が候補者にとって最も重要な資質だと答え、その八二パーセントがトランプを支持した。それとは対照的に、投票者の二二パーセントが「適当な経験のあること」が重要だと言い、これらは九〇対七でわたしに入れた。「正しい判断力」と答えた者は二〇パーセントで、六五対二五でわたしを支持した。そして一五パーセントが「自分のことを考えてくれる」候補者を望み、五七対三四でわたしに入れた。言い換えれば、変化を求める投票者がトランプ支持の大半だった。

 

変化は、人それぞれに違う意味を持つ。これは、最初からわたしにとって重大な問題だった。どんなに優れた大統領であっても、同じ政党が三期続けてホワイトハウスに居続けるのが難しいことは、歴史が証明している。わたしは下院での共和党の妨害を非難し、経済状況や政治を改善するための解決策を提案したが、それでも変化よりも持続を推進する候補者だというレッテルを免れることはできなかった。確かに、有権者たちが「現状を揺さぶりたい」「全てを壊したい」と望むなら、わたしよりもドナルド・トランプを選んだだろう。元下院議長のサム・レイバーンが、古き良きテキサスについて言った言葉を思い出してもらいたかった。「どんな間抜けでも納屋は壊せる。それを建設するのには、腕のいい大工が必要だ」

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WHAT HAPPENED 何が起きたのか?

WHAT HAPPENED 何が起きたのか?

ヒラリー・ロダム・クリントン /髙山祥子 訳

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