『老人ホテル』著者新刊エッセイ 原田ひ香
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ryomiyagi

2022/11/01

あの「絶望した」人に読んでほしい

 

もう隠しようもないのだが、私は『三千円の使いかた』(中央公論新社)という小説を五年前に書き、四年前に出版し、昨年八月に文庫化した。そして、売れた。

 

五年前は、書いている私も編集者さんも出版社も、一ミリも「売れる」とは思っておらず、こんなにたくさんの人が読むと思って書いていなかった。

 

これまでは売れることもないけど、大きく批判されることもなく、本は静かに出版され、静かに数少ない人に読んでいただき、静かにさざ波のような感想が広がったのに、思いがけない数の人が読み、さまざまな感想がちまたにあふれた。

 

「こんなこと誰でも知ってる」「何も学べなかった」「中身うすうす」「小説としても中途半端」「作者、ドブス」

 

倹約家の家族の小説で、それ以上でもそれ以下でもないのです。もちろん、批判は甘んじて受けるが、それらの感想以上に、私の胸を刺したのが次のような言葉だった。

 

「結局、親ガチャということ? お金持ちの仲良し家族がいなければいけないのかと絶望した」

 

こういう内容の感想が一つではなく、結構な数あり、かなりつらかった。私の小説なんて、さらっと読んで数時間楽しんでいただければ有難いと思う。そのために毎日書いているのに、なぜ絶望させてしまったのだろう。
『老人ホテル』を書いたのは『三千円〜』の文庫の売り出しとほぼ同時なので、正確にはアンサーとして書き出したわけではないが、ある種の答えになってほしいと願っている。主人公の「天使」は最悪の環境の中から一人、立ち上がるからだ。

 

決して、お金持ちになる方法を書いているつもりはない。だけど、一握りの殿上人をのぞいて、その方法は普通の人も、ひどい境遇の中から這い上がる人もほぼ一緒だと思っている。できたら、あの「絶望した」人に読んで欲しいのだけど、その日は来るのだろうか。

 

『老人ホテル』
原田ひ香/著

 

【あらすじ】
日村天使は生活保護を受け大家族ファミリーとしてテレビにも出ていたが、16歳で家を出て、キャバクラに勤める。そこでビルのオーナー綾小路光子と知り合った。数年後、古びたホテルに暮らす光子と再会する。彼女の指南で、生きるノウハウを学ぶことになるが……。

 

はらだ・ひか
1970年、神奈川県生まれ。2007年「はじまらないティータイム」ですばる文学賞受賞。『三千円の使いかた』が大ベストセラーに。『一橋桐子(76)の犯罪日記』がNHKにてドラマ化される。

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