マーケティングを世界で初めて実践した「三越」と「大丸」
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『三越呉服店』

 

マーケティングを世界で初めて実践したのは、実は欧米の企業ではありません。ドラッカーも認めているように、江戸時代の日本の企業です。

 

世界で初めてマーケティングを実践した企業は、江戸時代前期の1673年に、伊勢松坂出身の三井高利が江戸で開業した呉服店の越後屋です。明治に入り三越呉服店と改称し、東洋初の百貨店となった現在の三越の源流であり、三井財閥の始祖でもあります。

 

高利は、顧客をそれまでの大名や旗本、豪商などの富裕層ではなく、当時台頭しつつあった町人層に絞り込み、町人の視点に立って老舗の商習慣をことごとく覆すイノベーションを起こしました。具体的な内容は以下の通りです。

 

「現金掛値なし」をキャッチフレーズとして掲げ、従来の掛け売り(ツケ)で顧客との交渉によって値段を変えて盆と暮の年2回の後払いとするのではなく、安価な定価をつけて値引きなしでの現金販売としました。

 

また、屋敷を訪問して販売するのではなく、店舗を構え、店頭での対面販売にし、呉服は反物単位ではなく、顧客の欲しい分だけでも切り売りし、その場ですぐに仕立てにも応じるようにしました。

 

1683年に店舗を新築移転した際には、日本で最初のチラシである「引札」を発行して、江戸の10里四方の25万世帯に50万~60万枚を配布、おまけに売上高の推移を記録して、引札での広告効果により3か月で売上が60%増えたことまで確認しています。

 

ほかにも屋号の入った番傘を無料で貸出ししたり、万一他店より高価であったり、気に入らなかったりした場合にはいつでも返金を保証したりするなど、さまざまな工夫を凝らして大繁盛しました。

 

町人に対して小売りをするだけでなく、地方の商人へも卸売りをすることで飛躍的に売り上げを伸ばして江戸随一の呉服店となり、大坂へも出店します。

 

排斥運動や妨害工作までして激しく反発していた同業者も、越後屋が幕府から呉服御用達に命じられてからは、その商法を模倣するようになっていきました。

 

越後屋の現金掛値なしの商法がまだ珍しかった大坂で、1726年から事業を展開し、名古屋、江戸へと進出、13の出店を設けて天下の巨商に数えられるまでになったのが、下村彦右衛門が1717年に京都で創業した呉服店の大丸です。

 

彦右衛門は、大丸の店是を「先義後利」すなわち道義を先にして利益を後にすることと定め、「商人は諸国に交易し、西の物を東に通じ、北の物を南に送り、人の用を調べ、その中おのずから利を得てその身を養うものなり」とし、顧客のためにならないものは売らないように徹底しました。

 

今日でいう企業の社会的な責任(CSR)を果たしていたおかげで、大塩平八郎の乱でも、大丸だけは義商だとされ焼き討ちを免れています。

 

顧客のためになるものを調べて商いをすれば、おのずと利益を得ることができるというのは、まさにマーケティングの発想そのものです。

 

江戸時代中期の1690年頃から、越中富山の薬売り(売薬さん)は、富山藩の産業奨励策による後押しを受けて、置き薬による「先用後利」という商いのしくみを全国へ広めました。

 

顧客は、あらかじめ家庭に預けてある薬を先に使って病気を治し、薬売りが年に1、2度訪問してきた際に、使った薬の分だけの代金を後から支払えばよいのです。

 

薬売りは、地元の薬屋が株仲間(同業者組合)をつくっているような大きな町は避けて、地方ごとに仲間組という組織をつくって全国の農村地域を手分けして行商し、顧客を開拓していきました。

 

最盛期には全国を約3000人でカバーし、多くの家庭に薬を配置するまでになり、300年後の今日でも薬事法で定められた配置販売業として続いています。

 

大阪ガスが1964年に、ガス湯沸かし器を7、8月に取り付ければ、お代は12月までいりませんとするキャンペーン「アロハサンタセール」を行い、前年実績の2倍の22万台を販売して新聞紙上を賑わしたのは、「先用後利」が薬以外でもヒットした例です。

 

江崎グリコが2002年から展開し、10万か所以上に配置している置き菓子サービスの「オフィスグリコ」は、置き薬のしくみを職場向けにアレンジしたものです。

 

せっかくいにしえの商人たちが編み出していたこのような日本発祥のマーケティングの知恵も、つくれば売れる高度成長期やバブル期を経たこともあってか、一部の例外を除いて忘れ去られてしまったようです。

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鈴木隆(すずきたかし)
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