絶望から立ち上がるとき、一番力になったこと 鎌田實先生の新「へこたれない」ヒント 3
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医師として国内外で精力的に活動する著者が出会った、数々の命の輝き――。
現役医師にして人気作家・鎌田實先生の著書『新版 へこたれない』(光文社知恵の森文庫・8月9日刊)より、選りすぐりのエッセイをご紹介します。
読後、きっと暖かな涙があなたの心を洗い流す、カマタ先生の“元気が出る”一冊!

 

人間になりたかった

 

絶望から立ち上がる時、何が一番力になったかを聞いた。「人間になりたかった」と言う。当たり前のことがしたかった。病気になって初めて、いろいろな人のお陰で生きているのだということがわかった。病気になってからのほうが世界が広がったと、子どもたちに話してくれた。

 

六年生の男の子が言った。
「歩けるなんて当たり前と思っていたけど、歩けることがすごいことなんだと気がつきました。ぼくは走るのが遅いので、自分の足が嫌いでした。大切なことを教えてくれてありがとうございます」

 

おばあちゃんがうれしそうな顔をした。
「それは素敵。ワンダフル。いいことに気がついたわね。私は大切なことに気がつくのにとても時間がかかってしまいました。三年間も、なんで私がこんなつらい目にあわなければいけないのって泣いたり、うらんだり。やっと、やっと感謝ができるようになりました」

 

おばあちゃんは最後にこう締めくくった。
「みんなが来てくれて、うれしかった。私の話を聞いてくれて、ありがとう」

 

聞く力は生きる力

 

子どもたちにとって、初めての経験だった。

 

年をとるとはどういうことなのか。障害を持つことがどんなに大変か。
それにも負けず生きていることがどんなに素晴らしいことか。

 

子どもたちは何かを感じたようだった。

 

それから教室に戻って、聞くことの力を子どもたちとディスカッションした。男の子が手をあげて話してくれた。
「『で?』という言葉を、冷たく言われると、次の言葉が言えなくなってしまう。『それで、どうしたの?』と話に興味を持って聞いてもらえると、次の言葉がとっても話しやすくなる。相手が話しやすいようにしてあげることが大切だと思いました」

 

女の子が話してくれた。
「脳卒中のおばあちゃんが聞いてくれてありがとうと言ってくれました。聞かせてもらっただけなのに感謝された。聞くことって大切ですね」

 

聞くことには生きる力があると、子どもたちもわかり始めた。最近、子どもも大人も人の話に耳を傾けなくなった。聞くことをもっと大切にしなくては、と思った。

 

聞くことを通して、大切なことを学んだ。この八十四歳のおばあちゃんは苦しみの中からジタバタしない生き方を見つけ出した。

 

「なにもできなくなったのに、私はいらない人間って思われなかった」

 

存在を肯定されると、人間はオタオタしないで生きていけるようになる。
自由に歩けなくなって初めて、「歩けるって、ステキ」と気がついた。
オタオタしないで生きていると大切なモノが見えてくる。

 

話を聞きに来てくれた子どもたちに「聞いてくれて、ありがとう」。美しい言葉だと思った。オタオタしないで生きていると感謝ができるのだ。なににがあっても、ジタバタしないで生きていこうと思った。

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新版 へこたれない

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鎌田 實 (かまた みのる)

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