「私は極度の潔癖症なんだ。」『より高き忠誠 A HIGHER LOYALTY』#10 ジェームズ・コミー
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トランプ大統領はなぜ、私をクビにしたのか? 前FBI長官による衝撃の暴露。

ジェームズ・コミー著『より高き忠誠 A HIGHER LOYALTY』より

2018年4月17日にアメリカで刊行され、1週間で60万部を売り上げた本がある(初版は85万部)。前FBI長官ジェームズ・コミーの著者『A HIGHER LOYALTY(より高き忠誠)』だ。FBI長官の任期は10年である。それは時の大統領の政治的圧力に屈することなく、その捜査方針を貫くためだ。ところが2017年3月、就任したばかりのトランプ大統領に突如解任された。まだ5年以上の任期を残していた。「トランプ陣営のロシアとの癒着に関する捜査妨害」が解任の真の理由として囁かれているが、真偽は定かではない。ブッシュ大統領に司法副長官、オバマ大統領にFBI長官に任命されたコミー氏はなぜ解任されたのか? 邦訳版(藤田美菜子・江戸伸禎訳)の緊急出版にあたり、その衝撃の内容の一部を10回にわたり連載する。

 

 

トランプとの面会から4日後の1月10日、ニュースサイトのバズフィードが、私がトランプに説明した35ページの文書の全文を掲載した。記事はこう始まっていた。

 

ドナルド・トランプ次期大統領にロシアが長年「接近し、支援を行っていた」とするトランプに関する極秘情報を入手した─。真偽は未確認ながら、ここ数週間、そう主張する爆弾文書が議員や情報部員、記者たちのあいだに出回っている。数カ月間に書かれたメモをまとめたその文書によると、ロシアの工作員がトランプの側近に接触していたという。これらの疑惑は具体的であるものの真偽がまだ確認されておらず、今後も確認できないかもしれない。なお、トランプ自身のきわどい性行為がロシア側によって記録されたという生々しい疑惑も書かれている。

 

報道を受けて、次期大統領はこうツイートした。「フェイクニュース─完全な政治的魔女狩りだ!」

 

翌1月11日、私は次期大統領とふたたび話をした。オバマとは過去3年に一度も電話で話したことはなく、ふたりだけで会ったのもたった2回だった。それに対してトランプとは、まだオバマ政権が続いているというのに5日で2回もふたりだけの話し合いをすることになったのである。私はFBI本部のオフィスの窓際に立ち、電話機を耳に当てていた。眼下には、暗くなったペンシルベニア通りを車が行き交い、その向こうには、明かりの消えない不夜城の司法省庁舎が見えた。それから視線を上げて、右手にワシントン記念塔が煌々と照らし出されているのを見たのを覚えている。記念塔は、ホワイトハウスから徒歩圏内で、ペンシルべニア通りにオープンしたばかりのトランプホテルの上にそびえていた。

 

次期大統領はニューヨークから電話をかけていた。彼はふたたび私を持ち上げることから話を始めたが、今回は心から褒めているというよりも、社交辞令で言っているだけのように聞こえた。彼は「きみにはぜひ続けてもらいたいんだ」と言った。私も前と同じように、FBIに残るつもりですと答えて彼を安心させた。

 

それから彼は本題に移った。例のロシアがらみの「文書」が「リーク」されたこと、そしてそれがどのようにして行われたのかをとても心配していると言った。連邦政府機関がリークしたと言いたかったのかどうかはよくわからなかったが、私はその文書は政府の書類ではないと説明した。それは民間人によってまとめられ、その後、議員やメディア関係者をはじめ多くの人に配布されたものだった。FBIが作成を頼んだわけでもなければ、作成のために報酬を支払ったわけでもない。それは極秘扱いではなく、そもそも政府の文書でないのだから、「リーク」されたという言い方も正確ではなかった。

 

次期大統領は、トランプ・タワーでふたりきりのときに私から説明されたことについてずっと考えていると語った。2013年にミス・ユニバースの大会に出席するためモスクワを訪れた際、同行した人たちにも話を聞いたという。そして、今になって思い出したが、モスクワでは一泊もしなかったと主張した。ニューヨークから現地に着いたあと、ホテルに寄ったが、それは単に着替えをするためで、その晩のうちに帰国の途についたというのだ。続いて、彼は驚くべきことを言った。私が説明の際にあえて言及しなかった疑惑を、自分から持ち出したのである。

 

「きみにもこれが事実でないとわかる理由がもうひとつある。私は極度の潔癖症なんだ。私が自分の周りにいる者に交互に小便をさせるわけがない。絶対に」

 

正直に言うと、私はそれを聞いて思わず吹き出しそうになった。疑われている行為はホテルに泊まらなくてもできるし、その場にいる人間とそれほど近づいていなくともできるということは言わないでおいた。実際はこんなふうに想像を巡らせていた。詳しくは知らないが、ザ・リッツ・カールトンのプレジデンシャルスイートというのは、極度の潔癖症でもその行為ができるくらいには広いものなのではないか?ほかにもいろいろ思うことはあったが、すべて言わないでおくことにした。

 

私はワシントン記念塔やそのほかの建物を眺めながら、こんな感慨にとらわれていた。FBI長官と次期大統領がこんなことについて話すことになるとは、私とこの国にいったい何が起きてしまったのだろう。次期大統領は、私がとくに気にしていなかった部分について2度目の反論をしたあと、電話を切った。私は首席補佐官のライビキを探しに行った。世の中がおかしくなってしまった、そして私もそれに巻き込まれてしまったらしい、と伝えるために。

 

世の中は、その後もおかしいままだった。

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より高き忠誠 A HIGHE RLOYALTY

より高き忠誠 A HIGHE RLOYALTY真実と嘘とリーダーシップ

ジェームズ・コミー /藤田美菜子・江戸伸禎 訳

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