人は本当に欲しいものではなく、手に取りやすいものを、買い求める?!
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主にドラッグストアやコンビニエンスストアで販売されているブランドに、その世界観を表現するために、スペースマーケティングという手法を選んでいるものがあります。これは、ブランドが小売店の一部スペースを借りて、その売場からブランドの世界観を発信するというマーケティングです。売場の中でも、消費者の目線に近い高さで、商品が手に取りやすい位置を「ゴールデンスペース」といいます。

 

ゴールデンスペースには、新商品が置かれることが多いのですが、以前から販売されている商品でも、この場所付近に置くと、売上の水準が明らかに変わる(上がる)ことがあります。特に、カウンセリング化粧品(対面販売で、カウンセリングを通じて販売される商品)ではなく、消費者が自分で選ぶセルフ化粧品でこの傾向は顕著になります。

 

マーケターも当然、これを考慮して売場提案を行うので、夏にニーズが大きくなるネイルなどは、初夏にゴールデンスペースへ移動することが多くなります。

 

これは、消費者の利用可能性ヒューリスティクス(思いつきやすいことを参考にすること)によると私は考えています。小売店にはたくさんの化粧品が並んでいて、その全てを比較検討するのにはかなりの時間がかかります。消費者は、見やすい場所から目当ての商品を探すでしょう。マーケターや小売店の方も、季節に合わせた商品やオススメの新商品を見やすい場所に並べるので、この消費者の行動は理にかなっているといえます。逆に、見にくい場所に置かれた商品は、良いものであれ、消費者の手に取ってもらいにくいのです。

 

つまり、消費者の利用可能性ヒューリスティクスによって、需要が大きく変動するといえます。例えば、ある夏に素肌感覚の薄付きファンデーションが発売になった時、以前から販売されていた同ブランドのチーク(ほお紅)がゴールデンスペースへ移されました。素肌っぽく肌悩みをカバーし、そこにチークで血色感を与える、というメイクアップ提案でした。これにより、このチークの売上水準が大きく上がりました。

 

これは私の仮説ですが、このメイクアップ提案が消費者の心を掴んだことに加え、このチークがそれまでよりも多くの消費者の目に留まるようになったことも、売上が上がった大きな要因だと考えています。WEB上のブランドサイトやSNSで新発売のファンデーションを知った消費者が、売場で隣に並んでいるチークを見つけ、それを購入するという、それまでなかった新しい購買行動のパターンが加わったということです。

 

商品は、多くの消費者の目に留まるほど、欲しいと思ってもらえる可能性も増え、結果として売上が上がります。消費者に気づいてもらいやすくすること、つまり、消費者の利用可能性ヒューリスティクスという視点を持ってマーケティングを行うことは、特にセルフ化粧品において重要だと考えられます。

 

こういった需要変動を予測するためには、きちんと情報を把握することがとても大切です。

 

マーケターが利用可能性ヒューリスティクスを理解し、変動可能性を知ることで、予測担当に情報を伝える必要性を感じてもらわなければならないですし、予測担当も、売場提案情報について、常にアンテナを張っておかなければなりません。現実に、〝この情報を知っていたら正しく予測できたのに〟というもったいない予測ミスは少なからずあります。需要予測の精度を向上させるためには、まずは必要な情報を漏らさず得られるようにすること。利用可能性ヒューリスティクスという視点を持って、そのような環境を整えることが重要だと考えています。

 

 

以上、『品切れ、過剰在庫を防ぐ技術』(光文社新書)を一部改変して掲載しました。

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