欲しいものがいつでも買える時代に、商品がいつまでも「品切れ」のままになる理由
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インバウンド需要の急増によって、2014年から日本の化粧品マーケットが大きく変化しました。2015年は、東京や大阪のデパートにおいて、前年の10倍の売上になったブランドもあったとニュースになっていました。中でも特に、世界のマーケットにおいても認知度が高く、「高品質で信頼できる」ブランドに人気が集中していると感じています。

 

この結果、こういったブランドを持つメーカーは商品の供給量を大幅に増やしてきたのですが、それに伴い、商品の製造に使われる原料や容器などの需要も急激に増加しました。メーカーからこれらの製造を受託し、販売しているOEM(original equipment manufacturer:受託製造)会社にとっても、インバウンドバブル(?)が到来したのです。

 

一方で、高品質な容器を製造できるOEM会社に、業界を越えて様々なメーカーからの注文が殺到するという事態になり、メーカーにとっては、思うように容器を確保することが難しくなってきました。私の友人が偶然、OEM会社へ転職していたので、その内情について聞きました。

 

化粧品メーカー同様、OEM会社も売上が伸長傾向にあるのは確かなようで、供給能力が逼迫してきているとのことでした。しかし私は一つ、不思議に思っていることがあります。それは、インバウンド需要が急増したとはいえ、それから既に3年以上が経っているのに、なぜ未だに供給が不足しているのか、ということです。2014年の時点で、インバウンド需要のこれだけの伸長を予測するのは、どの業界の誰にとっても難しかったと思います。

 

一方で、その伸長を実感してから設備投資していたとしても、そろそろその効果が表れてきても良いはずです。この疑問を、OEM会社に勤務する友人に尋ねました。すると、未だに供給が不足しているのには、3つの理由があることがわかりました。

 

1つめは、工場設営の問題です。工場をつくると決めてから、1、2年では稼働ができません。また、そもそも日本では良い場所が見つかりにくいそうです。海外に工場を持つOEM会社も少なくないですが、インバウンド需要で重要な要素として、「MADE IN JAPAN」があるのです。

 

2つめは、国が主導している働き方改革です。たとえ新しい工場をつくらなくても、人員と労働時間を増やせば、ある程度は供給量を増やすことができます。一方で、今はブラックな働き方には行政指導が入ることもありますし、人員も簡単には集まらなくなってきています。これは工場設営の場所探しを難しくする理由にもなっているそうです。ロジスティクス業界においても、宅配業者の人員確保の問題がかなり深刻化しているのは、みなさんもご存知のことでしょう。

 

3つめは、いつまで今のインバウンドバブルがつづくか、楽観的ではないため、大胆な投資の意思決定ができないことです。一度大型投資をしたら、ペイするまでに短くない時間が必要になりますが、果たしてインバウンド需要の伸長は今後も安定的につづくと言えるでしょうか。

 

私は、化粧品のインバウンド需要には為替レートが大きく影響しているという仮説を持っているので、このまま安定して伸長しつづけるとは思っていません。某大統領の発言や自然災害、国同士の関係によっても為替レートは変わる可能性がありますから、需要予測で対応できるものではないと考えています。

 

これには認知科学の知見である、現在性バイアスが関わっていると思います。人は曖昧な状況を嫌い、未来よりも今をずっと重要視する傾向があるというものです。その性質によって、 “今、気持ち良い” “不確実なことは判断したくない”という気持ちが生まれ、これが意思決定に良いとは言えない影響を及ぼしている可能性があります。みなさんも、不確実な状況での意思決定が大きなストレスを伴うことは、既に実感されていると思います。現在性バイアスの存在を認識していても、このような大きな投資を伴う意思決定は非常に難しいでしょう。

 

以上3つの理由によって、過去には見られなかったくらいの長期にわたり、供給が逼迫している商品があるのです。日本の労働人口が減少傾向にある中、マーケットはグローバル化し、化粧品を含む特定のカテゴリーの需要規模は大きくなっています。同時に、これまでのような長時間労働に対する人々の見方は既に変化し、労働時間の延長によって成果を増やすことはナンセンスになりつつあります。よって、革新的技術(ロボットやAIなど)を活用した生産性の向上が注目されていますが、同時に、消費者でもある私たちの意識改革にもスポットが当たり始めていると感じています。

 

欲しいものがいつでも買える、頼めば明日(もしくは今日中に!)届く、1日でも新しくつくられたものが食べたい。これらは全て、本当に必要なことなのでしょうか。革新的技術によって、世の中はスピードアップしてきたと思いますが、人の心は逆に、そろそろスローダウンしても良いのかもしれません。

 

 

以上、『品切れ、過剰在庫を防ぐ技術』(光文社新書)を一部改変して掲載しました。

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山口雄大(やまぐちゆうだい)

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