【売行好調御礼】足下から世界が見える――地味にスゴイ!土の研究【特別インタビュー】
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2018年8月に刊行された『土 地球最後のナゾ―― 100億人を養う土壌を求めて』。「土」という比較的泥臭いテーマに似合わぬ大反響で、毎日新聞・日本経済新聞・週刊ポスト・週刊文春…etc.多くのメディアで書評が掲載され、発売即重版! あっという間に4刷にもなりました。売れ行き好調を記念して著者である森林総合研究所主任研究員の藤井一至先生のインタビューを掲載します。地球を飛び回る研究の面白さ、土を巡る世界の問題、若手研究者の奮闘の日々……全二回でお届けします。

 

 

――発売して少し経ちました。反響はいかがでしょうか?

 

概ね良好です(笑)。本の中で、「土は12種類に分類できる」と紹介しましたが、研究者の知り合いの中でも、12種類に分類した土をすべてに見たことのある人はそう多くなく、面白く読んでくれた人も多かったようです。

 

土壌学の中でも、私の研究分野、土を分類する「土壌分類学」は地味極まりない学問です(笑)。例えば、同じ分類学でも、昆虫の分類なんかだと、学名に自分の名前が残ることがありますが、土壌の分類は12種類のどれかに当てはまるだけなので、名前も残らない。輪をかけて地味な分野です。それでも、今は、地味なのがウリかもしれないと思っています。

 

――12種類はちょっと多い……かもしれない……ですね。

 

日本であれば、畑の黒い土、田んぼの灰色の土、山の茶色い土など3種類の土くらいしか見る機会がありません。そして、日本の土は、世界に多い土とは違っていて、特殊なものが多いです。その違いが分かって面白かったという感想をいただきました。また、実際に大塚ニンジンを育てる農家の方からも、自分たちがニンジンを育てている土の特殊性が理解できて嬉しいといった反響をもらって、喜んでいます。

 

――藤井先生は世界中を巡って土の研究をされています。「土にも色々ある」ということをこの本で読んではじめて知った! という感想もあります。

 

そもそもふだん、土にすら目のいかない方のほうが多いですからね。人が一様でないように、本来土にもいろいろあります。

 

――世界をまたにかける壮大な研究にもかかわらず、土を巡る研究は、一見地味に見えてしまいます。

 

「アメリカ大陸を縦断してきた」「小笠原諸島に行ってきた」に加えて、「土だけ見てきた」と伝えると、「他にすることなかったの?」と言われてしまうことが多いです。もったいないことをしているみたいな(笑)。土も面白いんですが、そのことを知らないとわからない。「アメリカの数億年前の地層を見てきたの?」「小笠原諸島ってことは赤い土?」と会話が弾むには、土に関する共通理解がないと難しいですね。『進化論』のダーウィンや『風の又三郎』の宮沢賢治も、もともとは土の研究者ですが、そのことはほとんど知られていません。

 

――確かにふだんあまり土のことを話題にすることはないかもしれません……。

 

土がクローズアップされることがあるのは、何か困ったことがあるときです。

 

「土壌」といったときには、「土」は自然にあるものを指すことが多く「壌」は畑の土を指すことが多いです。土壌の研究をしていると、自ずと「農業」と関わりが深くなります。

 

野菜の値段が急に高騰したら、すごく切実な問題ですよね? 日頃の食べ物を生産する場として、種を播けばそのうち何か出てくる、というサイクルが問題なく回っている時は、気に留めることはありませんが、そのサイクルが歪み始めると多くの人は、急に慌てふためきます。そこで土のことにも関心を向ける。病気になったら、お医者さんのところに行く――ではないですが、土の研究者は、困った時に出てくるような黒子的なところがあるかもしれません。

 

――本の中では、予想される人口爆発を踏まえて、「100億人を養うことができる土」があるかどうか、が重要なテーマになっています。100億人は少し先の話かもしれませんが、さしせまっては特に問題ないのでしょうか?

 

現在70億人をかかえる地球ですが、世界的な食糧生産全体のことだけ言えば、上手く分配さえすれば、問題なく賄えるはずです。とはいえ、それが上手くいっておらず、飢餓に苦しんでいる人たちもいるという現状があります。土や悪く、水も足りないところがあって、そこに住む人はお腹いっぱいになるほど食べられない。

 

とはいえ、土が悪くても、水と肥料さえ充分にやることさえできれば、大抵なんとかなります。ただ、どれくらい肥料を播けるかどうかは、その国のGDP(国内総生産)と強い比例関係があるというデータがあります。経済原理によって肥料を買えない国があり、本当に必要とされる地域で肥料を播くことができない。それが飢餓を引き起こしている潜在的な原因でもあります。

 

――食料生産は、土のことだけに留まらない問題なんですね。

 

植物が育つときに必要な三要素として小学校で教わるのは、「光」「水」「肥料」です。最後は「土」にしたいのですが、水耕栽培ができることを考えると「土」はいらないんですね(笑)。土がなくても植物だけを育てることはできる。某映画の一節に、「土から離れては生きられないのよ」というセリフがありますが、厳密に言うと、「人は土から離れて生きていける」かもしれない。でも、農業は、元手のかからない太陽エネルギーと水、微生物を中心とした土の養分のリサイクルの仕組みを活用することで、安く大量の食糧を生産できる仕組みです。植物を育てるには、多くの微量元素が必要ですが、土に不足しがちな窒素・リン・カリウムを含んだ肥料さえ与えてやれば、足りないところは土が勝手に補ってくれる。そういう意味でも土には縁の下の力持ち的なところがありますね。水耕栽培だと、微量元素も足してあげないと枯れてしまうので。

 

次回はコチラ

 

藤井一至(ふじいかずみち)
土の研究者。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所主任研究員。1981年富山県生まれ。京都大学農学研究科博士課程修了。博士(農学)。
京都大学研究員、日本学術振興会特別研究員を経て、現職。カナダ極北の永久凍土からインドネシアの熱帯雨林までスコップ片手に世界各地、日本の津々浦々を飛び回り、土の成り立ちと持続的な利用方法を研究している。第1回日本生態学会奨励賞(鈴木賞)第33回日本土壌肥料学会奨励賞、第15回日本農学進歩賞受賞。著書に『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』(山と溪谷社)など。

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土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて

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