ルールも成長も、モチベーションすらも不要な「ホラクラシー経営」で人は働けるのか? 『社長も投票で決める会社をやってみた。』

今泉愛子 ライター

『会社からルールをなくして社長も投票で決める会社をやってみた。人を大事にするホラクラシー経営とは?』WAVE出版
武井浩三/著者

 

 

会社にはルールが多い。人が集まる場だから、効率的な運営のためには必要なのだろうけど、Twitterの某ビールメーカーの中の人(企業など団体やブランドのアカウントを運営している人)が「投稿前にチェックすべき項目が96個ある」とつぶやいていたように、本来の目的を縛るルールもたくさんありそうだ。

 

暗黙の了解に近いルールも多い。印鑑は、上司の押印に対して、お辞儀しているように見えるよう左に傾けて押す、という企業もあるらしい。上下関係にそこまで気を使う意味はどこにあるのか。しかしそれをバカバカしいと言っていては、会社員は務まらないのかもしれない。

 

ところが、著者が創業した「ダイヤモンドメディア」という会社はルールをなくしたという。上下関係もなければノルマに追われることもなく、休みは自分で決めていい。給与は半年に一度全員で話し合って決定、代表も選挙で決める。根底にあるのは、自由かつ自律的なワークスタイルを実践することこそ、企業を支える力の根元になるという考えだ。アメリカではこうしたマネジメントスタイルを「ホラクラシー経営」と呼ぶらしい。

 

とても民主的な会社に思えるが、気持ちよく働くことだけが目的ではない。

 

たとえば、物事を決めるときに多数決は使わない。その理由を著者は、組織が弱体化するから、と説明する。多数決で物事を決めるようになると、政治力を駆使する人も出てくるだろう。すると、派閥が生まれる。個人の見栄や自己顕示欲が組織を左右するような事態も起きるかもしれない。各自が自分の仕事に必要な判断は自分で行う。判断に迷うことがあれば誰かに相談する。それで組織は回るのだ。

 

こういう会社なのに、「モチベーション」を扱わないというのもユニークだ。それは個人の話であって、組織全体とは何も関係がないという。できないものはできないと割り切り、メンバーに対して、成長をうながすことはしない。冷たいようにも聞こえるが、成長することが善で、もっともっとと迫られる組織で働くのもつらいものがある。

 

一方で、自分はなぜ働くのかという意識をもっていないと、働き続けることは難しい。自分より優秀な人があっという間に自分の給料を超えたとき、どんなふうにモチベーションを保つのか。

 

本書は、組織のあり方を問うと同時に、働き方をも問う。フリーランスのわたしが面白いと思ったのもそこだ。人生100年時代、組織任せにせず、自分はどう働くかをいま一度、真剣に考えたい。

 

『会社からルールをなくして社長も投票で決める会社をやってみた。人を大事にするホラクラシー経営とは?』WAVE出版
武井浩三/著者

この記事を書いた人

今泉愛子

-imaizumi-aiko-

ライター

雑誌「Pen」の書評を2002年から担当。インタビューや書籍の構成ライターとしても活動している。手がけた書籍は出口治明『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、太田哲雄『アマゾンの料理人 世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所』(講談社)など。ランナーとして800mで日本一になったこともあり、長いブランクを経て、再び日本記録に挑戦中。


・Twitter:@aikocoolup
・オフィシャルブログ「Dessert Island」:http://aikoimaizumi.jugem.jp/

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