家族と旅に出たくなる理由 『日本一人が少ないところの、日本一きれいな星空』

吉村博光 HONZレビュアー

日本一人が少ないところの、日本一きれいな星空』今井印刷
豊哲也/著

 

星空が美しい季節に入る前に、素敵な写真集に出会った。星空日本一の認定を受けた鳥取県(別名:星取県)の星空を写しとめた一冊だ。県内19市町村全てを網羅した星景に、土地への愛が詰まった言葉が添えられていて、しんしんと胸にしみる。

 

都会暮らしを顧みながらページをめくると、様々な思いがよぎる。街の夜空しか見たことがない子どもたちに美しい星空を見せたくなって、私はすぐに高原のホテルに予約を入れた。里帰りとか観光以外に、家族と旅に出る理由ができる本だ。

 

本書の写真を撮ったのは、地元・鳥取県に住む写真家の豊哲也氏。本書にこんなコメントを寄せている。

 

「鳥取の美しい星空は鳥取の素晴らしい環境の象徴です。なので、私は鳥取県に住んでいる方にも他のところに住んでいる方にも、この鳥取の星の美しさを知っていただきたくこれらの写真を撮りました。」 ~本書より

 

私も同感だ。ぜひ、鳥取県以外の地域にお住まいの方にこの写真集を見ていただきたい。日本人が便利さと引き換えに失ってしまったものに、気づくだろう。私は、田舎から東京に引っ越してきたとき、「東京には何もない」と感じた。星空は、その代表選手だった。

 

あらためてタイトルを見ると、誰が「日本一」と決めたのか?と、疑問に思う方もいらっしゃるかもしれない。日本で一番の理由として、本書では次の4つを挙げている。(1)全国星空継続観察1位、(2)夜空が暗く恵まれた環境、(3)どの市町村からも天の川が見える、(4)身近な場所で星空を楽しめる。

 

要約すると、(1)は環境省の観察結果で何度も全国1位になったという客観的なデータだ。(2)は「澄んだ空気」と「人工の光の少なさ」というもの。そのため(3)天の川がよく見え、山や海などロケーションの多様性のため(4)観測ポイントが多い、ということになる。

 

冒頭には、103cmの反射望遠鏡やプラネタリウム、宿泊施設などがある公開天文台「鳥取市さじアストロパーク」(佐治天文台)の所長・山西正博氏の言葉が添えられている。巻末には写真の撮影場所を示した地図もある。ぜひ、星を取る旅に出かけてみてはいかがだろうか。

 

今まで天の川と一緒に写真を撮ったことがありますか?
日本で数少ない体験のできる場所。
本書87頁「星空と撮影する(大山町)」(撮影:豊哲也)

 

先ほどご紹介した写真家・豊哲也氏のコメントは、次のように続く。

 

「ただ、きれいな星空を撮るのではなく、できるだけ住んでいる人とのつながりが感じられる写真を撮ることで何かみなさんの心に残ればと。
この本をきっかけに星を眺めて幸せを感じる時間を持っていただけたら幸いです。」 ~本書より

 

撮影:吉村博光(本書に収録されている写真ではありません)

 

本書を読んだ後、帰宅時に玄関からうしろを振り返ると、美しい夕焼け空が広がっていた。星空ではないけれど、本書の言葉を思い出して子どもたちを呼んだ。バタバタと駆けてきて、私の両膝にからみつく。背が低い下の子を抱っこして、3人で空を眺めた。幸せだった。

 

空気が澄む冬は、星空を眺めるにはもってこいの季節だ。天文などの本を読み悠久の時に触れると、目の前に広がる世界の彩色が変わる。現実がよりビビッドに感じられ、記憶力も集中力も発想力も、高まるように感じられる。

 

どんな本でも構わない。話題の本や好きな作家の本だけでなく、本屋さんをぶらついて、天文や考古学などのたまたま目についた本を、ぼんやりとした気持ちで買う時間を私は失いたくない。いや、失ってなるものか。こんな贅沢、他にあるかい?

 


『日本一人が少ないところの、日本一きれいな星空』今井印刷
豊哲也/著

この記事を書いた人

吉村博光

-yoshimura-hiromitsu-

HONZレビュアー

出版総合商社トーハンで本屋さんへの販売提案を行うほか、書評などを通じて一般の方々に本を紹介する活動を行っている。また、書店×IT「マクルーハンの本棚 」第2弾として企画した「AI書店員ミームさん」は、テレビで取り上げられるなど、業界内外で大きな話題となった。私生活では、2児の父で介護中。趣味は競馬と読書。そんな日常と地続きの本をご紹介していきたい。


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