〈ハマの用心棒〉が黒幕を追いつめる 『スクエア横浜みなとみらい署暴対係』西上心太

小説宝石 

『スクエア横浜みなとみらい署暴対係』徳間書店
今野敏/著

 

本書は今野敏の二百冊目となる作品だ。デビューから四十一年だが、初の著書は八十二年の『ジャズ水滸伝』(現『奏者水滸伝 阿羅漢集結』)なので、年五、六冊ペースで作品を積み上げたことになる。大ブレイク以前でも、超売れっ子になった後でも、少しも変わることなく、黙々と作品を書き続ける姿勢はまさに職人芸で頭が下がる。

 

横浜の山手町の廃屋跡から二つの遺体が発見された。遺留品からその土地の所有者で、引退した華僑の資産家・劉将儀とされたが、実はその遺体は詐欺師と判明。もう一体の白骨遺体が三年ほど消息を絶っていた劉ではないかと推測された。背後に暴力団関係者の関与が疑われたため、暴力犯対策係の諸橋と城島は捜査本部に呼ばれることになった。

 

〈横浜みなとみらい署暴対係〉シリーズの第五弾である。市民を脅かす暴力団をひときわ憎む諸橋夏男警部と相棒の城島勇一警部補を中心とした暴力犯対策係をフィーチャーしたシリーズだ。今回は所有者不明の土地の増加という社会問題を取り入れている。そのため対暴力団というシンプルな構図を越えて、殺人事件担当の捜査一課はもとより、詐欺事件を扱う捜査二課もあわせた体制のなかで、一筋縄では解決できない事件に挑むことになるのだ。

 

とはいえそこは〈ハマの用心棒〉の異名を取る諸橋である。時に二課の協力を得ながらも、これまで培った経験や人脈を生かした独自の捜査方法で黒幕を追いつめていく。

 

安積班シリーズや隠蔽捜査シリーズに比してやや影が薄かったが、現代的なテーマと脇役キャラの確立があいまって、ぐっと存在感を増した本書は、二百冊目という区切りにふさわしい作品となった。

 

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『エスケープ・トレイン』光文社
熊谷達也/著

 

主人公はプロ二年目で競技の経験も浅い小林湊人。移籍してきた超大物選手も加わり、年間チャンピオンを目指した自転車ロードレースのシーズンが始まる。

 

競技の最大の敵は「風」。風圧の存在が、ロードレースを単純な速度争いから、戦略と複雑な駆け引きが必要なチーム戦へと昇華させる。エースを支えるアシストの存在、逃げ、トレイン、プロトン……。詳しい知識を持たなくても、競技が持つ奥深さ、そしてレースの臨場感を、成長していく湊人の視点から生き生きと読みとれる。スポーツ小説のお手本といえる作品で、続編も期待。

 

 

『スクエア横浜みなとみらい署暴対係』徳間書店
今野敏/著

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-syosetsuhouseki-

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