シェイクスピア見立て殺人の真相は『ハムレット殺人事件』円堂都司昭

小説宝石 

『ハムレット殺人事件』東京創元社
芦原すなお/著

 

『ハムレット』といえばシェイクスピアの四大悲劇の一つである。登場人物が次々に死ぬ物語に様々な解釈がされてきた名作だ。芦原すなお『ハムレット殺人事件』では、大女優・夏日薫が中心となり上演予定だった『ハムレット』の最終リハーサルで彼女を含む出演者五人が死亡、一人が劇中のオフィーリアのごとく水に浸かり失神状態で発見される。どんな順番で事件が起きたのか、不可解な状況だ。

 

作中では夏日薫の出演作として『アドルフ』、『マノン・レスコー』、『メディア』、『マクベス』といった古典に言及される。その意味では芸術の香りが漂う内容である。だが、それ一色ではない。学生時代に夏日とともに芝居をした私立探偵・山浦歩は、事件前から彼女に助けを求められる夢を見ていた。このため、彼は事件を解決しようと乗り出すが、伝手(つて)をたどり協力を得ることになった遠藤警部からは邪険にされる。通称「ふーちゃん」の山浦と遠藤のやりとりはコミカルだし、ふざけているとすらいえる。

 

また、夏日は『ハムレット』を舞台化する際、夫でヤクザとつながりのある男優、チンピラ上がりの若手俳優、女性アイドルなど、名作の上演らしからぬキャスティングをした。クセのあるメンツゆえ、裏では悶着もあったらしい。シェイクスピア劇は聖と俗の両面をあわせもつが、俗に傾いた配役であり、それを題材とするこの小説も笑いに傾き、悲劇であるよりも喜劇のノリに近づいている。真相が語られる結末部分に顕著な通り、『ハムレット』の芸術性と、この名作に対する先入観を裏切る異質な要素を重ねたところに面白みがある。実はこの芝居は悲劇ではなく喜劇だったのではないかと思えて、困ってしまう。

 

こちらもおすすめ!

『バッドビート』講談社
呉勝浩/著

 

『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』が恐るべき疾走感だった呉勝浩が、『バッドビート』でまた、やけくその勢いをみせてくれた。ヤクザから荷物運びを命じられたワタルは、腕っぷしの強いタカトとともに受け渡し場所へ行く。だが、気づいてみると額に穴があいた三人の死体があった。交換するはずのモノがなくなったのも殺人も、自分たちのせいにされそうだ。彼らはカジノ中心のアミューズメント「レイ・ランド」という賭博の聖地界隈で生き残りをかけて駆け続けるはめになる。闇雲なパワーでふり回されるのが心地いい小説だ。

 

 

『ハムレット殺人事件』東京創元社
芦原すなお/著

この記事を書いた人

小説宝石

-syosetsuhouseki-

伝統のミステリーをはじめ、現代小説、時代小説、さらには官能小説まで、さまざまなジャンルの小説やエッセイをお届けしています。「本が好き!」のコーナーでは光文社の新刊を中心に、インタビュー、エッセイ、書評などを掲載。読書ガイドとしてもぜひお読みください。(※一部書評記事を、当サイトでも特別掲載いたします)

関連記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を