最果タヒの言葉は、心の内側を暴き出す真実の鏡。『恋人たちはせーので光る』

横田かおり 本の森セルバBRANCH岡山店

『恋人たちはせーので光る』リトル・モア
最果タヒ/著

 

 

たったひとつの言葉。ほんの数行の文字の連なり。ただ、目にしてしまっただけなんだ。でも、出会ってしまったばっかりに、今までの「普通の世界」は音を立てて崩れてしまった。

 

もちろん「怖い」と思う。だって、知らない世界に飛び込むのは、どんな得体の知れないものがあるか分からないし、私は剣を携えた勇者でもない。でも、境界線を飛び越えるとき、あるいは、まっ逆さまに転落するとき、目の前に広がり、寸断なく変わり行く景色を目にしながら、同時にスローモーションで映像を見ているかのような錯覚にとらわれる。

 

顔の見えない誰かなのに、心の中にぽうっと明かりが灯るような、懐かしくて、あたたかい気持ちになる人の横顔。キラキラとたくさんの星が浮かぶ夏の夜空。屈託のない笑顔で話しかける、私自身の姿。過去の映像のような、未来の希望のような、手を伸ばせば掴めそうで掴めない映像は、やがてぷつりと途切れる。

 

『恋人たちはせーので光る』は、詩人の最果タヒさんの最新詩集で43の詩が収録されている。ページの中で、文字は縦に横に、文字通り縦横無尽に配置され、さりげなく、しかし計算しつくされたシャープさで、文字の間を蛍光のイエローが走る。

 

“これはタヒさんの心の叫びです!”そんなこと、冗談でも言えやしない。たぶんそれは真実ではないし、真実を知ろうとするならば、自分の心を見つめるしかないのだから。

 

強力な言葉は鏡のような役割をはたす。よりくっきりと私の輪郭を捉え、心の内側を暴き出す真実の鏡。その前に立つ私は、いつもの私と少し違う顔をしている。

 

それにしても『恋人たちはせーので光る』なんて、すごいタイトルだ。インパクトがありすぎて、とても素通りできない。ただのタイトル、言葉の羅列。けれど、私には手をつないだ恋人たちが互いを見つめあい、にっこりと微笑みあった後、「せーの!」って発光しだす姿がはっきりとイメージできる。現実的にはありえないなんてナンセンスだし、これは、いつもの普通の世界を超えた先で起こるもの。

 

それに、恋人たちが光るなんて、たまらなく素敵だ。恋人同士になるって、とてもロマンチックで甘いものでしょう?互いを「すき」だと思うえに成り立つ、奇跡みたいなことでしょう?そんなとびっきりの時間を守れるのは、強くて真っ直ぐな言葉しかないって思う。

 

本の読み方は、私次第、あなた次第だから、今回私は、あなたを本の入り口まで誘う案内人でいたい。それに私だって、まだ表紙を見つめながら呆然と立ち尽くしているのだ。さて、この言葉を、この強力な魔法を、どうやったら私に馴染ませることができるんだろうって。

 

でもね、本当は一人で言葉の森に踏み込むのは心細いんだ。そろそろ誰かとイメージの世界に飛び込んでみたいんだ。

 

あなたと私。二人で「せーの!」って言える日が来たら。二人の心の中に同じ光を見つけられたら、手をつないで言葉の森に足を踏み入れてみようよ。あなたとなら、たどり着ける場所がある気がするんだ。

 

『恋人たちはせーので光る』リトル・モア
最果タヒ/著

この記事を書いた人

横田かおり

-yokota-kaori-

本の森セルバBRANCH岡山店

1986年、岡山県生まれ。担当は文芸書、児童書、一般文庫、人文書、学習参考書。 本を開けば人々の声が聞こえる。知らない世界を垣間見れる。 本は友だち。人生の伴走者。 本がこの世界にあって、ほんとうによかった。

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