「性風俗シングルマザー」の支援者が考える「貧困専業主婦」のゆくえ

坂爪真吾 一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

『貧困専業主婦』新潮社
周燕飛/著

 

 

私の運営するNPOでは、弁護士やソーシャルワーカーと連携して、性風俗店で働く女性の法律相談事業「風テラス」を行っている。

 

相談会を開催している性風俗店には、毎月のように新人の女性が入店してくる。彼女たちの中には、夫と離婚して一人で子育てをしているシングルマザーが少なくない。

 

この仕事を選んだ理由を聞くと、異口同音に「昼間の仕事では十分に稼げないので」「短時間で高収入が得られるから」と語る。

 

ひとり親世帯の貧困率は五割を超える。経済的に困窮し、社会的に弱い立場に置かれているにもかかわらず、シングルマザーは「自己責任」という言葉の下、社会的なバッシングやネグレクト(無視・放置)の対象になりがちである。

 

その中でも、性風俗店で働くシングルマザー=「性風俗シングルマザー」は、あるべき家族規範や性規範に背いた存在、あるべき母親像に背いた存在として、社会的な理解を得ること、そして適切な支援を受けることが困難になっている。

 

こうした「性風俗シングルマザー」と対を成す存在が、「貧困専業主婦」だ。専業主婦という(かつて存在していた)あるべき家族規範や母親像を忠実に体現している存在である一方、それゆえに経済的困窮に追い込まれている。

 

「経済的な勝ち組」あるいは「非合理な選択」といった表層的なレッテルを貼られたり、社会から見えにくい立場、当事者が声を上げづらい立場に置かれていることも、性風俗シングルマザーと同様だ。

 

『貧困専業主婦』著者の周燕飛氏の推計では、専業主婦世帯のうち、年間の手取り収入が貧困線(所得中央値の50%)を下回る世帯の専業主婦を「貧困専業主婦」と定義すると、2016年における貧困専業主婦の推定人口は21.2万人に上る。

 

同書で紹介されている調査によれば、彼女たちの約8割が「働きたいと思わない」「働くことができない」と回答している。自ら無職でいることを選択している人の割合が突出して高いのだ。

 

妊娠・出産を契機に退職すること、そして専業主婦になることは、大きな経済的損失を伴う。著者の試算によれば、生涯賃金・退職金及び国の年金を含めた女性の収入総額は、学校を卒業した後、「ずっと正社員」の場合は、高校卒が約2億円。大学卒は2億9千万円となっている。

 

一方、30歳まで正社員として働き、40歳から64歳までパートとして仕事復帰する「(元)専業主婦」の場合、高校卒が9300万円、大学卒が8900万円となっている。「ずっと正社員」との差額は、高校卒で約1億円、大学卒で約2億円になる。一度も働かずに専業主婦になる場合、「ずっと正社員」との差額はさらに増える。

 

金銭的な損得計算では決して選ばれるはずがない「専業主婦」コース。にもかかわらず、6割の女性が妊娠・出産を機に退職しているという事実は、過去20年間でほとんど変わっていない。そして退職した女性のうち、半数以上は「後悔がない」と回答している。

 

女性が専業主婦を選ぶ原因は、金銭的な損得計算ができないからでも、家庭と仕事の両立を支援する制度を利用できないからでもない、と著者は分析する。

 

同書の中でも、貧困専業主婦が高い幸福度を有している(3人に1人はとても「幸せ」と感じている)というデータが紹介されている。

 

専業主婦を選んだ女性たちが、経済的豊かさやキャリアの成功による自己実現よりも、子どもをうまく育て上げたやりがいと達成感に幸せを感じているのだとすれば、それは誰にも否定できない。

 

一方で、貧困専業主婦を取り巻く現状を「本人が望んでいるから」「現状に幸福感を感じているから」といった理由で放置しておけば、本人の不幸のみならず、子どもを含めた次世代への貧困の連鎖を招くことは確実だ。

 

こうした現状を踏まえた上で、著者は、貧困専業主婦に限っては、本人がどう考えていようとも、行政がある程度の「おせっかい」をする=個人における選択の自由を尊重しつつ、情報提供や制度設計を通して彼女たちを賢い選択へと“軽く誘導する”ことが必要である、と主張する。

 

これは、性風俗シングルマザーに対しても当てはまることだろう。困っている状態にある人であればあるほど、「自分で選んだ道だから」「他人の助けを借りるわけにはいかない」と思い込んでしまいがちだ。その結果、長期的に見れば不利な選択肢を取り続けてしまう。

 

必要なのは、彼女たちの選択を上から目線で審判・否定することではなく、オルタナティブな選択肢を提示し、彼女たちが自らの意思でその選択肢を望んだ時に、適切なサポートを提供できるような仕組みをつくることだ。

 

表層的なレッテル貼りや是非論を超えて、貧困専業主婦に対して、いつ・どこで・どのような「おせっかい」をすべきか。著者の次回作では、この問いに対して具体的な答えが出されることを期待したい。

 

 

『貧困専業主婦』新潮社
周燕飛/著

この記事を書いた人

坂爪真吾

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一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。 新しい「性の公共」をつくるという理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。 著書に『はじめての不倫学』『誰も教えてくれない 大人の性の作法』(以上、光文社新書)、『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『孤独とセックス』(扶桑社新書)など多数。

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