大切な人との離別や死別…来るべき喪失の良き準備をしよう

藤代冥砂 写真家・作家

『喪失学』光文社新書
坂口幸弘/著

 

喪失学、というタイトルにどきりとした。誰もが生きていれば、何かを失うのは当たり前だが、できれば喪失からは出来るだけ離れていたいというのが多くの人の本音だと思う。

 

喪失は、不幸が結晶化したようなもので、深い悲しみとして世界を暗く覆ってしまう。そんな喪失を学問として捉えたかのようなタイトルは、そろそろ喪失としっかり向き合いなさいと告げられているようで、身構えつつ読み進めた。

 

大雑把に言ってしまえば、本書は、喪失との付き合い方についての手引きである。喪失学というタイトルよりも親しみやすい本となっている。

 

そもそも喪失とは何かについて考え、喪失との向き合い方、乗り越え方をいくつかの例を参考にしつつ導き、最後はこれまで経験してきた自分の喪失歴を振り返るワークで終了となる。

 

しっかりと向き合わなければと知りつつ避けているものを乗り越えたかのような読後感は、私に来るべき喪失の良き準備となった。準備が整っていれば、いざ本番となった時の対処に余裕が生まれるはずだ。それはその時には自覚できないかもしれないが、きっとそうなはずだ。

 

例えば、避けて通れない大切な人との離別や死別。家族や恋人、友人、との別れは、考えるだけでも滅入る物だが、そうなった時に自分がどう対処したいのかのイメージを作っておくことで、すでに少しは救われた感があるのだ。

 

そして自分が大切な人たちからお先に去るという喪失もある。死後の世界や自分のことなど考えても無駄かもしれない。だが、心の準備だけはしておこうという気になったのは、本書のおかげだ。

 

辛いことは、向き合わなければ解決しない。その向き合う勇気の大切さを、まっとうに伝えている点で、本書は一家に一冊のものだと思う。

 

『喪失学』光文社新書
坂口幸弘/著

この記事を書いた人

藤代冥砂

-fujishiro-meisa-

写真家・作家

90年代から写真家としてのキャリアをスタートさせ、以後エディトリアル、コマーシャル、アートの分野を中心として活動。主な写真集として、2年間のバックパッカー時代の世界一周旅行記『ライドライドライド』、家族との日常を綴った愛しさと切なさに満ちた『もう家に帰ろう』、南米女性を現地で30人撮り下ろした太陽の輝きを感じさせる『肉』、沖縄の神々しい光と色をスピリチュアルに切り取った『あおあお』、高層ホテルの一室にヌードで佇む女性52人を撮った都市論的な,試みでもある『sketches of tokyo』、山岳写真とヌードを対比させる構成が新奇な『山と肌』など、一昨ごとに変わる表現法をスタイルとし、それによって写真を超えていこうとする試みは、アンチスタイルな全体写真家としてユニークな位置にいる。また小説家としても知られ著作に『誰も死なない恋愛小説』『ドライブ』がある。第34回講談社出版文化賞写真賞受賞

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