円堂都司昭が読む 因習に満ちた島の異形の創世記『変半身』

小説宝石 

『変半身』筑摩書房
村田沙耶香/著

 

この島には昔、ポーポー様という神様、ポピ原人という種族がいたとする伝説があった。島民みんなが参加するポーポー祭りが毎年行われ、最終日の夜には秘祭「モドリ」が催される。

 

十四歳以上の選ばれた秘祭参加者については、口外禁止である。「モドリ」に初めて参加する美術部の少女・陸と副部長の高城は、しきたりから逃げられないと語りあう。だが、もう一人の同期生・花蓮(かれん)が無茶をする。

 

村田沙耶香『変半身』の表題作は、劇作家・松井周と共同で原案を作り、それぞれが小説化、舞台化するプロジェクトとして書かれた。

 

本書所収のもう一編「満潮」が男女の性意識のギャップを扱っているように、村田はジェンダーをテーマにしてきた作家である。「変半身」では、それを歴史というテーマとともに扱っている。

 

少女時代の陸は「はやくみんな死ねばいいのにな」と思っていた。大人たちが死んで自分たちが一番年上になれば、島は変わると夢見たのだ。

 

自身が大人になり、外の社会で「勝ち組男性」の妻を演じていた陸が旧友とともに帰ると、島は激変していた。ポーポー様は捨てられ、歴史が塗り替えられていたのである。

 

陸は大人になる前に「モドリ」の真実を知ったにもかかわらず、なおポーポー様にこだわってしまう。

 

少女の頃の願いに反し、年長になった彼女は島の変化を素直に受け入れがたい。別の価値観で生きるように変身したはずだったが、半身はかつてなじんだ伝説に思いを残している、そんな状態。

 

思いこみに囚われる人間の滑稽さを描き、不可思議な方向へ進む物語だ。そして、島はあなたの故郷、あるいは日本の戯画であるかもしれない。

 

 

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『変半身』筑摩書房
村田沙耶香/著

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-syosetsuhouseki-

伝統のミステリーをはじめ、現代小説、時代小説、さらには官能小説まで、さまざまなジャンルの小説やエッセイをお届けしています。「本がすき。」のコーナーでは光文社の新刊を中心に、インタビュー、エッセイ、書評などを掲載。読書ガイドとしてもぜひお読みください。(※一部書評記事を、当サイトでも特別掲載いたします)

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