しあわせにきまったかたちはないから。旅を続ける少女が見たもの

横田かおり 本の森セルバBRANCH岡山店

『しあわせの島へ』徳間書店
マリット・テルンクヴィスト/著 長山さき/訳

 

 

〈古い板でつくったおんぼろのいかだにのって、女の子が海を旅していました。〉
女の子が目指すのは、わたしがわたしらしくいられる“しあわせの島”。私もこの女の子とともに出航するような気持ちなの。

 

まず、女の子が目指したのは水平線。そこが目で見る最終地点だから。でも、そもそもさ、わたしの「しあわせ」ってどんなのだろうね。「しあわせ」の反対にある「きらい」はどんなのだろうね。旅をつづけていたら、分かるときがくるのかな?

 

だんだん夕陽が落ちてきて海はオレンジ色にそまり、やがて真っ暗な空に三日月のかたちをした月が浮かび消えていった。

 

女の子がおもうよりずっと、水平線は遠かった。まだまだ、いかだはどこにもたどりつけそうにない。けれど、海をただようさなか、とつぜんたくさんの船がやってきた。

 

〈のっているのは、しっている人やはじめてあう人、かわった人やおもしろい人。〉

 

なぜだろう。はじめていかだに乗ってきたのに、あの人との思い出や、記憶がこころにながれてくるみたい。

 

女の子はみんなに聞いてみた。
「水平線まであとどのくらい?どの方角にすすめばいいの?」
みんながちがうこたえを言って、あちこちの方向を指さした。こまったなぁって女の子は途方にくれる。

 

風がつよくなって、いかだは流されるように進んだ。女の子は、またひとりぼっち。はじまりに戻っただけなのに、世界のおわりにむかっているような孤独感。
いかだはいまや漆黒のやみに包まれて、女の子は茫然とたちつくす。あぁこわい、やっぱりここは、世界のおわりだ。
稲妻が空をさき、あたりは一瞬まばゆいほどのひかりに包まれた。大きなうねりとなった波と、あれくるう海。
でも、ふしぎと女の子のいかだは無事だった。

 

やがて海のまんなかにぼんやり浮かぶ木の看板を見つけた。〈しあわせの島〉って書いてあるみたい。

 

「わたし、そこにいきたい! 水平線はあとにしよう」
赤い花をくわえた真っ白でうつくしい鳥が、あらたなはじまりのしるしみたいにとんでいる。そして、島が見えてきた。

 

「ここがしあわせの島だよ」
人々は、女の子に向かってこう言った。きっとこの中のどこかにあるんだろうな。わたしの、探している場所。

 

期待にむねをふくらませ、女の子は島にひとつずつおりたった。カラフルな島にすむカラフルな人。静まった島にひっそりくらす人。自然あふれる島でのびのび暮らす人。縦に長いビルがそびえる島は、人なんてまるでいないみたい。大きな金魚がいる島に、うさぎだらけの島。

 

どの島でも声をかけられた。
「ここで、いっしょにくらそうよ」
ほんとうは、うれしかった。みんなの声に後ろがみをひかれる想いもあった。でも、まよってきめられないから。わたし、もっと遠くまでいってみる。たくさんの人に、たくさんの島。また会う日まで、さようなら。

 

遠くまでいかだで進んだ。やがて、きいたことのある音楽がきこえてきて、なつかしい気持ちになった。海の水面は鏡のようにぴかぴかして、その島をうつし鏡のように照らしだす。この島には、女の子をまっている男の子がいた。

 

〈いつまでもここにいて。〉

 

あなた、たった一人でわたしをまっていたの?わたしは、この人に出会うために、きっと旅をつづけてたのね。わたし、わたし、もうひとりじゃないのね。

 

それからは、いつでもふたりで過ごした。まんまる満月の夜には、見つめあいながらワインをかたむけて、雪がしんしんとふりつもる日はふたりで外を見つめた。木が生い茂り花々が咲きほこる日はふたりで音楽を奏でたの。たくさんの鳥やうさぎ、動物たちも、まるでふたりを祝福するようにあつまっていた。

 

〈でも、日々がすぎるにつれ、なんでもわかちあうのは だんだんむずかしくなってきました。〉

 

女の子のこころを映すみたいに、鳥たちは警告のように鳴き叫び一目散に飛び立った。わたしも、このままここに何でもない顔をして、いつづけることはできないね。だから、ねむらずに考えて、そっといかだに戻ったの。でもね、わたしの中から零れ落ちたこころはそこここに残したままなの。

 

女の子は、またひとりになった。もやがかかった世界に、黄金色の太陽はまっすぐうえを目指し、朝の到来をつげている。わたしをなぐさめるかのように、海はしずかに凪いでいる。

 

〈そして、水平線の上にいちばんさいごの島がありました〉

 

この島にはなにもないし、だれもいない。あぁ、でもここはわたしがさがしていた場所だ。女の子には、それがわかった。

 

わたしがおわり、はじまる場所。わたしがみつけた、わたしだけの世界。あたらしいときが、ここからはじまる!
ぜんぶ、ぜんぶ、自分で考えるの。わたしが歩いたあとには、わたしの足あとだけがつくわ。ここから、日々をつむいでいくの。この場所で、わたしのしあわせを創造するの。

 

しあわせにきまったかたちはないから。女の子のえらんだ道は、女の子にとってのしあわせなの。誰かとともに、何の苦労もなくたどり着けたらいいのだけれど、そう簡単にはいかないみたい。

 

私も、私のしあわせを見つける旅をつづけてみるよ。いろんな場所に立ち寄って、いろんな人と言葉をかわしてさ。困難な道こそ、すすんでみるよ。きっと、そこで思いもよらない私と出会えるだろうから。

 

強くしなやかになった私のうでのなか、すやすやと寝息をたてて眠る女の子がいる。それは、あの女の子かもしれないし、本当の私なのかもしれない。

 

『しあわせの島へ』徳間書店
マリット・テルンクヴィスト/著 長山さき/訳

この記事を書いた人

横田かおり

-yokota-kaori-

本の森セルバBRANCH岡山店

1986年、岡山県生まれ。担当は文芸書、児童書、学習参考書。 本を開けば人々の声が聞こえる。知らない世界を垣間見れる。 本は友だち。人生の伴走者。 本がこの世界にあって、ほんとうによかった。

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