きっとあなたも「くどうれいん」の感性と言葉と文章のとりこになる。

竹内敦 さわや書店フェザン店 店長

『うたうおばけ』書肆侃侃房
くどうれいん/著

 

 

くどうれいんを知っていますか?

 

まだ、知る人ぞ知るなくらいでしょう。肩書きで言えば、盛岡在住歌人兼OLに最近エッセイストが加わり、エッセイで注目を集めつつある。最新刊の本書は予想以上によく売れていて、アルバイトの若い女性が「わたしこの人のファンなんです」と買っていったのには驚いた。思ってたより人気浸透してるんだ、と。

 

雑誌の『POPEYE』に続き『群像』でも連載が始まった彼女のエッセイは、なんか、面白い。なんか、すごく、面白い。どう面白いのかとても言葉にしにくいのだが、面白いものは面白い。

 

前作の『わたしを空腹にしないほうがいい』はリトルプレスだったから、今作が全国の書店に流通可能なという意味ではメジャーデビューと言える。

 

一章に一人の友達とのエピソードを綴るかたちで、まずその個性的な面々との普通じゃないエピソードにやられる。楽しかった話ばかりでもなく案外暗めの話もあるのに、彼女は全く飾ることなく自分の内面の醜ささえ淡々とさらけ出す。ああ、人生だなあと感慨にふけってしまう。やっぱり文章がいい。長く言葉と格闘してきた人だと感じる。それでも気負いは感じない。日常のふとした気のきいた瞬間を捕まえるのがうまい。よく観察してるのだろう。何気ない違和感を面白がる精神があり、それが生きのいいまま伝わってくる。ずっと永久に読んでいたい文章だ。

 

文庫のタイトルを繋げて五七五をつくる「文庫川柳」にはまってた数年前、彼女が店に来た。後れ馳せながら短歌や俳句に興味を持ち始めていた。ちょうど、岩手県出身の武田穂佳が、短歌研究新人賞を獲って歌人デビューした。だから店のSNSで武田を推しに推しまくった。武田は彼女の後進だったらしい。意外にもノンタイトルの彼女は、自身のSNSで祝福と悔しさを隠さなかった。少々目障りなツイートをする店の主は誰だろうと思ったのか、突然店に来たのだった。

 

話してみたら楽しい人で、偶然の いたずらのような話が出来て強く印象に残った。もしかしたら偶然ではなく、他人の何気ない言葉から鋭く意味を汲み取るという、彼女特有の能力が発揮されたのかもしれない。ぼくには鮮烈な印象を与えた。それ以来、くどうれいんを応援している。

 

自分だけが見つけたと思うくらいマニアックな好きなものが、メジャーになってしまったとたんに興味を失うことがままある。でもぼくは直接知っているから大丈夫だ。どこまでもメジャーになれ、と思っている。今のうちならまだインディーズ感があるからお得ですよとお勧めしたい。

 

『うたうおばけ』書肆侃侃房
くどうれいん/著

この記事を書いた人

竹内敦

-takeuchi-atsushi-

さわや書店フェザン店 店長

声に出して読んだら恥ずかしい日本語のひとつである「珍宝島事件」という世界史的出来事のあった日、1969年3月2日盛岡に生まれる。地元の国立大学文学部に入学し、新入生代表のあいさつを述べるも中退、後に理転し某国立大学医学部に入学するもまたもや中退、という華麗なるろくでもない経歴をもって1998年颯爽とさわや書店に入社。2016年、文庫のタイトルを組み合わせて五七五を作って遊んでいたら誰かが「文庫川柳」と名付けSNSで一瞬バズる。本を出すほどの社内のカリスマたちを横目で見ながら様々な支店を歴任し現在フェザン店店長。プロ野球チームでエース3人抜けて大丈夫か?って思ってたら4番手が大黒柱になるみたいな現象を励みにしている。

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