「すべての男」が読むべき傑作 『ザリガニの鳴くところ』

高井浩章 経済記者

『ザリガニの鳴くところ』早川書房
ディーリア・オーエンズ/著 友廣純/翻訳

 

 

「2019年アメリカで一番売れた本」
「全米500万部突破」
そんなパワーワードが踊る帯には、強力な布陣で「とにかく、黙って、読め」と言わんばかりの推薦の言葉が並ぶ。
この上に私が贅言を重ねても意味がなさそうなので、個人的な体験を少々ご紹介する。

 

私が本書を購入したのは、文学YouTuberのベルさんのある動画がきっかけだった。

 

 

ベルさんの書評動画はどの本も読みたくなってしまうのだが、『ザリガニの鳴くところ』は「熱量」が明らかに違った。「2020年の上半期1位はこれで決まり」とまで言われては。善は急げとAmazonで発注し、翌々日には手元に届いた。
「週末に読もう」とリビングに積んでおいたら、なんと先に高校生の次女に読まれてしまった。目ざといな。一気読みした娘は、ベルさんと同じようなアツいまなざしで、「これ、もうね、すごい。女は全員、読むべき」と宣った。

 

こうして若い女性陣(と自分の娘を呼ぶのは変な気分だが)の猛プッシュをうけて、48歳のオジサンは本書に向かい合った。

 

はい、おっしゃる通りでございました。

 

舞台設定、人物造形、プロット、訳文、そして何より、大自然に寄り添って生きる「湿地の少女」の状況描写。何から何まで、素晴らしい。

 

読後の余韻のなか、親馬鹿ながら、「すべての女性が読むべき」というわが娘の感想がいかに的確だったか、感心した。

 

そして同時に思った。

 

いや、これは、「すべての男」にこそ、読まれるべきだ。

 

おそらく、多くの女性は、主人公カイアの孤独と試練、喜びに、すんなりと共感できるだろう。男性の方がシンクロするハードルは高いかもしれない。「わが事」のようには読み進められないかもしれない。

 

それでも私自身は、読んでいる最中は、この少女との一体感が味わえた。それはとても貴重な「体験」となった。
すべての女と、すべての男、LGBTの人々を含めて、できるだけ多くの人にこの素晴らしい作品を手に取ってほしい。
ああ、結局、私も陳腐な売り文句に帰着してしまった。
帯に推薦を寄せた人々の気持ちがよく分かる。こういう本には、こんな言葉しかないのだ。
「黙って、読め」。

 

『ザリガニの鳴くところ』早川書房
ディーリア・オーエンズ/著 友廣純/翻訳

この記事を書いた人

高井浩章

-takai-hiroaki-

経済記者

1972年生まれ、愛知県出身。経済記者・デスクとして20年超の経験がある。2016年春から2年、ロンドンに駐在。現在は都内在住。三姉妹の父親で、デビュー作「おカネの教室」は、娘に向けて7年にわたって家庭内連載した小説を改稿したもの。趣味はLEGOとビリヤード。noteで「おカネの教室」の創作秘話や新潮社フォーサイトのマンガコラム連載を無料公開中。

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