三浦天紗子が読む『彼女たちの部屋』人に手を差し伸べ、ともに進む尊さ

小説宝石 

『彼女たちの部屋』早川書房
レティシア・コロンバニ・著、齋藤可津子・訳

 

百年の時を隔てて描かれるふたりの女性の物語だ。現代パートを生きるソレーヌは、有名法律事務所で企業訴訟をいくつも手がけてきたエリート弁護士。しかし、パートナーとの破局と敗訴によるクライアントの自死によって大きなショックを受ける。〈燃え尽き症候群〉と診断され、そのリハビリとして、ソレーヌは〈連帯の羽根協会〉を介し、困窮女性のための施設で代書人のボランティアを始める。

 

最初は、施設に住む人種差別やDVなどで傷ついた女性たちに警戒され、〈誰からも必要とされていない〉悲哀を味わうが、彼女自身、路上に座り込んでいる女性たちを見て見ぬふりした後ろめたさを振り払いたいのだ。協会はパリ十二区、居住スペースと大きなホールやジムなどを内包する実在の歴史的重要建造物「女性会館」内にあり、百年の間、困窮した女性たちを守ってきた。過去パートで描かれるのは、その「女性会館」を夫アルバンとともに設立したブランシュの活躍だ。病魔に冒されてもなお成果をつかみ取る、希望のパートでもある。

 

男女平等の建前すらなかった百年前の方が、生きる上ではつらいはずなのに、女に生まれた悲劇に唇を噛むのは、むしろ現代を生きる女性たちの方というのが苦い。それでもソレーヌは、スーパーで二ユーロを割引してもらえなかった女性のために、娘を性器切除という古い因習から救い出すのに故郷に置いてくるしかなかった息子宛ての手紙を書きたいという女性のために、骨を折ってやり、そのつどソレーヌの意識は変わっていく。作中で紹介される、農民思想家ピエール・ラビが掲げるハチドリ運動のおとぎ話になぞらえ、「せめて自分にできることをする」と尽力するふたりの女性に胸を打たれる。

 

こちらもおすすめ!

『蜜のように甘く』亜紀書房
イーディス・パールマン・著、古屋美登里・訳

 

忘れられない一瞬が描かれた短編集

 

三度のO・ヘンリー賞受賞をはじめ、全米屈指の短編小説の名手として知られる著者。本書は、原書から十作品を厳選した日本版オリジナル。一話めの「初心」は、初老の男女の孤独が沁みる。寡婦のペイジにも大学で美術史を教える妻と別居中のボビーにも、忘れようにも忘れられない一瞬があり、それを打ち明けて癒やし合えるかと思った矢先にすれ違う。続く「夢の子どもたち」は、住み込みのベビーシッターが見た一家の父親が子どもたちの健康を願って描く不思議な祈りの絵の話だ。生と死と運命が縒り合わされ、忘れがたい残像が心に刻まれる。

 

『彼女たちの部屋』早川書房
レティシア・コロンバニ・著、齋藤可津子・訳

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-syosetsuhouseki-

伝統のミステリーをはじめ、現代小説、時代小説、さらには官能小説まで、さまざまなジャンルの小説やエッセイをお届けしています。「本がすき。」のコーナーでは光文社の新刊を中心に、インタビュー、エッセイ、書評などを掲載。読書ガイドとしてもぜひお読みください。(※一部書評記事を、当サイトでも特別掲載いたします)

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