家をつくる楽しみ、理想のくらしを叶える楽しみ。人生を楽しむ冒険の書

馬場紀衣 文筆家・ライター

『日用美のくらしづくり、家づくり』
小澤典代/著

 

 

家をいちばん好きな場所にしたい。本書は、人気の雑貨店「日用美」の店主・浅川あやさんの家づくりのノウハウと日々のくらしの記録を美しい写真とやわらかな言葉で綴った一冊だ。

 

家づくり、と言っても難しいことはいっさい書かれていない。自分はどんなくらしをしたいのか。誰と一緒につくるべきか。「安心や保証よりも、コストをなるべく抑え、自分たちの望む家を実現できる方法」をとりたいという考え方はとても現実的だ。浅川さんは土地の特徴を生かしながら、家の向きや間取りを設計していく。目指すのは、できるだけ自分たちも参加する家づくりだ。

 

とはいえ、自ら設計図を描けて、ものづくりに携わる仕事をしている浅川さんでも最初からすべてが予定通りに進んだわけではない。作業が進むなかで変更を加えることもある。そして、出来上がった住まいからはじめて見えてくることもある。

 

「くらし」とは日常的な営みで、その考え方も過ごし方も人それぞれだ。考えてみれば、私自身の暮らしにしたって、毎日が試行錯誤の連続だ。

 

 

たとえばインテリアを変えたいと思ったとき。雑誌やSNSで探してみるも、自分の理想とする部屋にはなかなか出会えない。それなら、とショップを巡ってみるのだが、疲れた体をひきずって未完成な家に戻るなんてことはしょっちゅうだ。理想的な家やくらしの幻影に取りつかれているのは私だけではないだろう。

 

だから自然や生きものの息吹を感じて日々を生き、くらすことを真剣にとらえている浅川さんの家づくりを見ていると、なるほど、自分の家にはたっぷりと時間をかけていいのだと妙に納得すると同時に、背中を押してもらえた気がした。

 

細部に気を遣い、こうでなければならない、という考え方から離れることの気持ちよさ。なるほど、日用美を追求することは、どこか冒険へ繰り出すようにわくわくすることだったのか。

 

 

浅川さんの考える居心地の良い空間とは、空気が流れているということ。だから窓の位置を計算し、風の通り方から日差しの入り方にまでこだわった。床は足裏がつねに触れている場所だから、材質と厚みに配慮したフローリングに。土間は、掃除のしやすさを優先してモルタルにするなど実用性と心地よさを兼ね備えている。

 

「風の通る部屋であったり、日当たりが良く一日の時の移ろいが感じられること。そして、肌に触れたときのあたたかな感触など、体で感じられる心地よさが大事だと思います」

 

理想の暮らしを手に入れるために「土地探し」からはじまり、「家づくりの前に考えること」「設計図」「現場でのこと」「地鎮祭」「インフラ整備」「DIY」「インテリア」と細かく紹介があり、引っ越してからは庭を作る楽しみや、さらには浅川家の普段のレシピまで紹介してくれる。

 

「家」からはじまる浅川さんのくらしは、自由で美しく、とても魅力的だ。これは断じて、ただの家づくりのための本ではない。

 

『日用美のくらしづくり、家づくり』
小澤典代/著

この記事を書いた人

馬場紀衣

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文筆家・ライター

東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。

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