今だからこそ大切にしたい、「手」と「心」をかけたくらし

馬場紀衣 文筆家・ライター

『心をととのえるインテリア』光文社
加藤登紀子/著

 

写真/吉澤健太

 

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で家庭用の椅子が売れている。どうやらマスクを手作りする人が増えたらしい。巣ごもりが浸透したせいか、キッチングッズの売り上げも好調だと言うし、料理に目覚めた人が多いのか、店頭ではお洒落なエプロンをよく見かけるようになった。新しいレシピを試したり、植物に手をかけたり、タオルにこだわったり、世界中で「家」の大切さが見直されているように感じる。

 

「住む人を幸せにするインテリア」をライフワークに、海外のクリエイターの家や、デンマークの家具デザイン史に残る伝説の家などこれまで国内外1,000軒以上の家を取材してきた加藤登紀子さん。家での幸せを考えてつくられた『心をととのえるインテリア』は、いまの時代にこそ読みたい一冊だ。

 

著者は「家での時間は、いくつかのルーティンの積み重ねでできている」と語る。「そうしたルーティンを支える場所に、少しだけ『手』と『心』をかけてみると、家はその思いに応えるように、心地よい時間をかえしてくれます」

 

たとえば身を整えるために毎日覗いているミラーも、外の景色を写りこませるように飾れば、空間に拡がりを生む仕掛けになる。部屋中に小さな窓が増えるなんて、素敵なアイデアだ

 

写真/吉澤健太

 

温度や香り、味わいを感じる器や食器類はもっとも取り入れやすいインテリアかもしれない。お茶の時間を気持ちの切り替えの儀式にしている人も多いという。お気に入りのカップなら、数分のブレイクがより豊かな時間になるだろう。

 

それでも、いざ外に出かければ日常の慌ただしさが押し寄せてくる。そんな時こそ、心を落ちつかせるために、気持ちの良いよい手ざわり、足ざわりにこだわりたい。癒される肌触りと洗練されたブランドのベッドリネンは疲れた体を幸せな眠りへと誘ってくれる。

 

冷たいフローリングの床を柔らかなカーペットに張り替えてみるのもいいだろう。玄関から居室までのサラリとした足裏の感触が、家でのくらしをより心地よい時間にしてくれる。愛犬もすべりにくくなるから、家族にもやさしい。

 

本書には、日本だけでなくニューヨークやパリなど海外の素敵な家も紹介されている。ページをめくって気づくのは、クッション一つ、カップ一つ、フラワーベース一つ、どれをとっても決して高価なものばかりではないということだ。それでいて、どのインテリアも家の主の生活にとてもなじんで見えるのはなぜだろう。

 

それはきっと、家主が自分のインテリアを宝物のように愛でているからだろう。大げさなことではなく、自分の「好き」を見つめ、家での時間を楽しむこと。「手」と「心」をかければ、家はたしかにその思いに応えてくれる。世界中のどこよりも穏やかで住みよい「家」を叶えてくれる力が確かにインテリアにはあるのだ。

この記事を書いた人

馬場紀衣

-baba-iori-

文筆家・ライター

東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。

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