マッサージは自分を好きになるための美容法

馬場紀衣 文筆家・ライター

『世界一のフェイシャル・マジック』光文社
ジュミ・ソン/著

 

 

フェイシャル・マジックとあるが単なる美容本ではない。文章が軽快でするする読めるし、マッサージをとおして自分と向き合う方法まで教えてくれる。著者はメイクアップアーティストとしてハリウッドで活躍した実力派だ。メディカルスパの業界でフェイシャリストとしての経験もある。

 

フェイシャリストと聞いてもいまいちぴんと来ないかもしれないが、美容に興味のある女性たちなら、顔のマッサージが美しさを磨くのにいかに大切であるかよく知っているだろう。顔の筋肉をほぐし、老廃物を流すことで首が細くなったり、あごのラインが引き締まったり、さらにマッサージは肌の赤みやシワにも効果的なのだ。フェイシャルマッサージは顔の印象を一変させてしまうというわけ。

 

そのフェイシャルマッサージが心と深い関係にあることが、本書を読むとよくわかる。生まれ持った自分の顔が好きだとはっきり口にできる人がいったいどのくらいいるだろう。

 

 

日本人の多くは目が大きくて、顔が小さくて、肌が白く、頭の小さい、すなわちスタイルの良い人がきれいなんだと刷り込まれているという。親や友人、周囲の環境が美に与える影響も見過ごせない。目は一重より二重のほうがいいし、胸は小さいより大きい方がいい。そう思い込んでいないだろうか。

 

「もしも私がアメリカで生まれていたら、アジア人特有の切れ長の目が自慢だったかもしれない。アメリカでは目が大きい人や、鼻の高い人ばかりなので、そこにあまり価値はない。むしろアジア人の小づくりな目鼻立ちが高く評価されるからです」

 

著者は、精一杯生きている自分を好きになることこそが美しさにつながると指摘する。コンプレックスに捕らわれていたり、親から受け取った価値観を引きずっている人はそうした心の持ちようが、そのまま顔に表れるらしい。世間の価値観に自分をあてはめる生き方をやめれば、顔が変わってくる。老化すら怖くなくなるというのだ。

 

「その人にとっての『心の痛み』がどこにあるのか、顔からわかる」という言葉にドキリとさせられる女性は多いのではないだろうか。

 

自分をきれいにしてあげることができるのは自分だけ。フェイシャルマッサージは今の自分と向き合うためのステップでもある。普段から自分の指で自分に肌を触る習慣を身につけておくこと。そうすれば顔の微妙な変化に気づけるようになる。人気で話題の化粧品に飛びつきたい気持ちもわかるが、まずは自分の肌をよく知っておくことが大事なのだという。そして自分で自分のことをほめてあげることも忘れないでほしい。

 

そうして手に入るのは、健康的で美しい肌だけではない。マッサージは、自分を好きになるための美容法でもあるのだから。

この記事を書いた人

馬場紀衣

-baba-iori-

文筆家・ライター

東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。

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