絶版なのが惜しい!第三者視点で妖怪漫画の大家の「尋常じゃなさ」が明らかになる『水木しげるの大冒険』

坂上友紀 本は人生のおやつです!! 店主

『水木しげるの大冒険』扶桑社
大泉実成/文
水木しげる/絵

 

本屋を始めて十年と少し、ずっとオススメしたかったのに一度もできていない『水木しげるの大冒険』。その理由は、初読時すでに絶版で新刊書籍として注文できなかった上、古本でも全く見かけなかったため、おすすめしても読める機会が少ない本だから。……というのもありますが、むしろ面白すぎて、小田和正さんの言葉を借りれば、「何から伝えればいいのかわからないまま時は流れて」しまったから!

 

この本を一言で説明するならば「尋常じゃない本」で、もう少し詳しく説明すると、「尋常じゃない人たちが、尋常じゃない事を探求した、尋常じゃない面白さの本」。然してその実態は「水木しげるご一行(含む、『ムー』編集者)が夢を操ると言われるマレーシアの先住民族・セノイに会うため、彼らに何度も取材していた大泉実成のアテンドで、共にマレーシア奥地のジャングル地帯に冒険旅行に出かけた際の、衝撃的に面白い探検記!」となります☆

 

ちなみに著者の大泉さんはこのマレーシアを皮切りに、オーストラリアやメキシコなどにも同行している「探検旅行 with 水木しげる」のいわばスペシャリスト! そんな大泉さん目線で書かれた旅行記は、ご本人は普通のことだと思って書かない「水木サンの行動」を、あるがままにレポートしてくれているところが最高です。「水木サン的スルーポイント」は、大体において「世間における大爆笑案件」なので、読んでいると笑いがこみ上げ大変幸せな気持ちになってくるのですが、多幸感が過ぎてちょっと空恐ろしくなってしまうくらいです!

 

例えばマレーシアでの夕食後、夜店の連なるマーケットに出かけようとする水木サン。「夜店の主は海千山千の華僑ばかりで、いつも金満日本人から金を巻き上げてやろうと手ぐすねを引いている」ため、心配したカメラマン(吉田さん)が水木サンのあとをついて行ってみれば……。

 

水木さんは中華菓子の屋台にフラフラと近づいていくと、いきなりお菓子の箱をバコッと開け、電光石火のスピードで菓子を鷲掴みにしてパクッと喰った、という。そして、
「こりゃうまくないなー」
とひとこと言い残すと、あっという間に人波の中に消えていってしまった、というのだ。しかも一銭も払わずに(ひょえー)。吉田さんはあっけにとられてその場面を見ていたが、もっとあっけにとられていたのが、海千山千のはずの屋台の中国人である。今自分の目の前で何が起こったのかよくわからないといった顔で、うつろな目で口をぽかんと開け、立ちすくんでいたという。

 

……みたいな、普通の日本人観光客ならしない(というか、地元の人だってそんなことはまずしない)ような水木サンの言動の数々がここにはきちんと記されています(余談ですが、うまければ買う)。が、どれだけ他の人にとってはオドロキの行動であっても、水木サンにしてみれば屁でもないことなのです。 だから、もしこの冒険旅行のことを水木サン自らが書かれていらっしゃったとすれば、このエピソードは省かれていたかもしれません。それはもったいなさすぎる!

 

ところでずっと「水木サン」と書いているのは、水木しげるさんの一人称が「水木サン」だからです。「私」とかそんなノーマルなことではないのです!(ちなみに「僕が子供の頃は」を水木しげる語に変換すると、「水木サンがベイビィの頃は」となります。あっぱれ!)

 

……と、話はそれましたが、日本でもマレーシアの街中でもジャングルにおいてさえ、そして相手が日本人でもマレー人でも華僑でもセノイであっても自らの存在としては何も変わらない、水木サンの清々しさよ! なんなら暴挙(イスラム教徒の真っ只中で素っ裸の沐浴)と言ってもいいようなことをしている時も、赤子のような無邪気さを放つ水木サン。一方で、ちゃっかりしているところはしている水木サン。いついかなる時も、彼は水木しげる以上でも以下でもなく、相手によって変えるとか場所によって変えるとか、そういうのが一切、ないんだなぁ!

 

その潔い在り方に感銘を受けつつ、時に非常に高い徳を積んだ僧侶も斯くやとばかりの受け応えをされる水木サンの「お化け」や「精霊」に関しての考察はもちろんのこと、「音」に関する鋭い指摘にも「ハッ!」とすることしきりでした。

 

そんな笑いも叡智も詰まった『水木しげるの大冒険』、ぜひともたくさんの方にお読みいただきたいです!

 

『水木しげるの大冒険』扶桑社
大泉実成/文
水木しげる/絵

 

※『水木しげるの大冒険』は改題のうえ、『水木しげるの妖怪探険 マレーシア大冒険』(講談社)として文庫化されていますが、こちらも現在、品切れ重版未定となっています。

この記事を書いた人

坂上友紀

-sakaue-yuki-

本は人生のおやつです!! 店主

2010年大阪の中崎町で本屋を始める。2012年大阪の堂島に移転、現在に至る。好きな作家は井伏鱒二と室生犀星。尊敬するひとは、宮本常一と水木しげると青空書房さんです☆ 現在、朝日出版社さんのweb site「あさひてらす」にて、「文士が、好きだーっ!!」を連載中。

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