「濃厚接触でなければ救われない」人たちは、どうすればいいのか

坂爪真吾 一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

『セックス依存症』幻冬舎
斉藤章佳/著

 

 

「セックス依存症」という言葉を聞いて、あなたはどんな状況や人物を思い浮かべるだろうか。何度注意されても浮気や不倫をやめられない状態や、性的なスキャンダルを起こしてしまい、フラッシュを浴びながら謝罪会見を開く著名人の姿が思い浮かぶかもしれない。

 

多くの人にとって、「セックス依存症」という言葉から連想するのは、「セックスが好きで好きでやめられない」状況や人物であることは間違いないだろう。

 

そうした「セックスが好きで好きでやめられない」人たちの集う世界として考えられている領域の一つが、性風俗の世界である。女性も男性も、「セックスが好きで好きでやめられない」からこそ、その世界に吸い寄せられるのだろう、というイメージを抱いている人も少なくないはずだ。

 

一方で、性風俗の世界には、「セックスが嫌いで嫌いで仕方がない女性たち」=男性との性的な行為を内心嫌悪しているにもかかわらず、それを繰り返すことがやめられない女性たちも一定数存在する。

 

また性風俗店に通う男性客の中には、「セックスが嫌いで嫌いで仕方がない男性たち」=女性との性的な行為を内心嫌悪しているにもかかわらず、それを繰り返すことがやめられない男性たちも一定数存在する。

 

性風俗店で働く女性と男性客の集う匿名掲示板やSNS上には、男性憎悪に満ちた書き込みと、女性憎悪に満ちた書き込みが溢れている。女性の容姿や性格に対して、見るに堪えない誹謗中傷を吐き続けている男性もいれば、店にやってきた「クソ客」や「勘違い客」に対する怒りや呪詛をひたすらつぶやき続けている女性もいる。性風俗の世界は、異性に対する憎悪と、それに基づく性的嫌悪が増幅されやすい世界でもある。

 

「全ての男性は、セックスのことしか考えていない」
「全ての男性は、女性を性の対象としてしか見ていない」
「全ての女性は、お金のためならばどんなことでもする」
「全ての女性は、好きでもない相手の前で裸になり、心にもないことを平気で口にする」

 

こうした歪んだ認識が強化されていく中で、お互いに憎悪と嫌悪を抱きながら、相手をモノ扱いし続けることで、お互いが不幸になっていく……という悪循環だ。

 

「なぜわざわざ嫌いなものや不快なものが溢れている領域に飛び込んでいくのか」「不快な対象や行為には、最初から近づかなければよいのではないか」と思われるかもしれない。

 

この背景には、身体的・社会的・経済的に多大な損失を受けているにもかかわらず、強迫的な行動を繰り返すことがやめられなくなる「依存症」という問題が隠れている。一般的なイメージとは異なり、依存症は「好きで好きで仕方がない」対象や行為だけではなく、「嫌いで嫌いで仕方がない」対象や行為に関しても起こりうる。

 

『セックス依存症』の著者であり、二千人以上の性依存症者と向き合ってきた精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏は、「性依存症者は、性欲をコントロールできない『性欲モンスター』ではない」「そもそも性依存は、性欲だけの問題ではない」と主張する。
性依存症の背景には、脳の報酬系に機能不全が生じて「やめたくてもやめられない」状態に陥ることに加えて、一時的なストレス解消、支配欲求や承認欲求、トラウマの自己治療、過去の性被害や刷り込まれた性的嫌悪などが深く関わっているという。また、現代にも根強く残っている男尊女卑的な価値観や、家庭での性教育の欠如、アダルトコンテンツの影響などの社会的な要因も深く関わっている、と斉藤氏は主張する。

 

異性に対する認識の歪みは、多かれ少なかれ、誰もが持っているはずだ。「自分はアダルトコンテンツの影響を全く受けていない」と胸を張って言い切れる人や、「家庭で異性の親から性教育や性的同意に関する話を聞かされたことがある」という人は、決して多数派ではないだろう。

 

そう考えると、セックスが嫌いで嫌いで仕方がないのに性風俗店で働くこと・利用することがやめられない人たちや、フラッシュを浴びながら謝罪会見を開く著名人たちと私たちとの間にある隔たりは、紙切れ一枚程度の薄さしかないのかもしれない。

 

コロナ禍で濃厚接触に対する嫌悪感、濃厚接触を繰り返す人たちに対する憎悪が強まっている中、濃厚接触をやめられない私たちは、どう生きていけばいいのか。濃厚接触がなければ生きられない、濃厚接触でなければ救われない者同士で、どのように支え合って生きていけばいいのか。その問いに対するヒントを与えてくれる一冊である。

 

『セックス依存症』幻冬舎
斉藤章佳/著

この記事を書いた人

坂爪真吾

-sakatsume-shingo-

一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。 新しい「性の公共」をつくるという理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。 著書に『はじめての不倫学』『誰も教えてくれない 大人の性の作法』(以上、光文社新書)、『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『孤独とセックス』(扶桑社新書)など多数。

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