これからのフェミニズムの「新常識」が分かる一冊

坂爪真吾 一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

『知らないと恥をかく「性」の新常識』光文社
齋藤賢/著

 

 

コロナ禍において、女性の貧困が改めて問題化されている。女性は非正規雇用の割合が高く、男性との賃金格差も大きいため、経済不安の影響を受けやすい。

 

そうした中で、女性支援を行う民間団体や女性議員による政策提言、記者会見やクラウドファンディングなどのキャンペーンなどがメディアで取り上げられる機会も増えている。

 

当たり前のように聞こえるかもしれないが、女性支援に携わっている関係者の大半は女性である。男性は圧倒的に少ない。私自身、風俗で働く女性の支援事業を行っているが、同業者の中で男性の知り合いは数えるほどしかいない。

 

一方で、女性の支援は、女性の支援者だけで全て行えるとは限らない。困っている女性は、必ずしも「同じ女性に相談したい」と考えているわけではない。特にパパ活や風俗など、「他の女性からの目線や評価が気になる仕事」「女性から否定されがちな仕事」をしている女性たちは、「女性には相談したくない」「男性に相談したい」と語ることが少なくない。

 

風俗の世界のスカウトや店長の大半が男性であること、そして繁華街のホストクラブが毎晩賑わっていることを考えれば、「男性にしか話せない・話したくない女性」がいることは明らかである。そして、そういった女性ほど、複雑で深刻な悩みを抱えてるケースが少なくない。

 

そう考えると、「女性だけで行う女性支援」には限界がある。女性支援を行うためには、男性の力が必要になる場面が必ず出てくる。

 

しかし、女性支援の世界では、男性の当事者や支援者は、「男性である」という理由だけで、女性支援者から敬遠・排除されてしまうことがある。そうした対応の背景には、支援者である彼女たち自身の男性に対する怒りや恐怖が隠れている場合がある。そして、そうした男性嫌悪の感情が、支援の現場で思わぬマイナスの影響を与えてしまうこともある。

 

風俗で働く女性を支援する過程で、性暴力の被害に遭った女性を支援している団体に問い合わせた際に、「風俗で働く女性からの相談は受けていない」という趣旨のことを言われたことがある。自分たちが認めない仕事、自分たちにとって許せない環境の中で女性が被害に遭った場合、それは自業自得なのだから、救いの手は差し伸べない、という理屈だ。

 

しかし、風俗の世界を否定するあまり、風俗の世界で性暴力被害に遭った女性を支援することも否定してしまうのでは、本末転倒である。誰のための、何のための支援なのか分からない。

 

女性を支援するためには、「男性を叩く」のではなく、「男性を巻き込む」必要がある。これは「男に媚びろ」「男にへりくだれ」という意味ではない。男性及び男性が作り出した(とされている)世界に対して一面的なレッテルを貼らずに、彼らときちんとコミュニケーションをとる必要がある、という意味だ。そして、男性を巻き込んでいくためには、女性だけで動くのではなく、「男性を巻き込める男性を育てる」必要がある。

 

本書『知らないと恥をかく「性」の新常識』は、20代半ばの男性・大学院生である著者が、性に対するテーマに疎い同世代~年配の男性に向けて、近年の性に関する社会的なムーブメント、そして若手アクティビストたちの多彩な活動を解説する、というスタンスをとっている。

 

著者はジェンダー研究の専門家でもなければ、フェミニストを名乗っているわけでもない。「東大大学院のヘテロ男性という圧倒的強者が偉そうにジェンダー格差の問題を語るな」と叩きたくなる人もいるかもしれない。

 

しかし、これからの女性支援で最も重要なのは、著者のような「市井の男性通訳」である。女性の専門家によるジェンダーやフェミニズムに関する解説書は、既に数多く刊行されている。新聞やウェブメディアでも、ジェンダー不平等や性差別をめぐる問題は毎週のように取り上げられている。

 

しかし、実際にそうした本や記事がジェンダーをめぐる問題に全く関心のない男性に読まれる確率は、決して高くないだろう。同じ価値観を持つ人だけが集まるSNS上で、いくら「ホモソーシャル!」「ミソジニー!」といった横文字を連呼しても、どれだけ「日本のジェンダー・ギャップ指数は153か国中121位」というデータを念仏のように唱え続けても、無関心層の男性には全く届かない。

 

現代社会に根強く残るジェンダー・ギャップを解消し、性的同意を浸透させ、緊急避妊薬の市販化や包括的性教育などを実現していくためには「これまでこれらの問題に関心を持っていなかった無関心層の男性をいかに動かすか」が重要な課題になる。

 

女性だけでなく男性にもメッセージを届けるため、そして社会の左側(リベラル)だけでなく右側(保守)にいる人たちを動員するためには、本書の著者のような「市井の男性通訳」を増やしていく必要がある。

 

男性は、叩くものでも憎むものでもない。無関心層を動かすための通訳として、若い世代の男性にうまく活躍=社会に情報発信をしてもらうこと。こうした「男性活躍推進」の姿勢が、これからの女性支援やフェミニズムの「新常識」になっていくはずだ。

 

『知らないと恥をかく「性」の新常識』光文社
齋藤賢/著

この記事を書いた人

坂爪真吾

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一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。 新しい「性の公共」をつくるという理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。 著書に『はじめての不倫学』『誰も教えてくれない 大人の性の作法』(以上、光文社新書)、『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『孤独とセックス』(扶桑社新書)など多数。

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