公的支援から除外されてきた若年男性たちの半世紀

坂爪真吾 一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

『夢幻の街 歌舞伎町ホストクラブの50年』角川書店
石井光太/著

 

 

水商売や性風俗など、いわゆる「夜の街」の高収入ワークで働く女性たちに対しては、「なぜ働くのか」「いくら稼げるのか」といった好奇の目が向けられやすい。
道徳的な是非論や、一日で稼げる収入の数字ばかりが注目される一方で、彼女たちが稼いだお金をどのように使っているのかについては、取り上げられる機会は意外と多くない。
彼女たちの稼いだお金が日々流れ込んでいる場所の一つが、ホストクラブである。ホストクラブの主要顧客は水商売や性風俗で働く女性たちであり、彼女たちが稼いだお金を担当のホストに注ぎ込んでくれるおかげで、ホストクラブというビジネスは成立している。
ホストクラブと性風俗は表裏一体の関係にある。複雑で不透明な「夜の街」の構造を明らかにするためには、女性たちの生きる世界だけではなく、男性たちの生きる世界に対しても注目する必要がある。

 

本書『夢幻の街』は、歌舞伎町ホストクラブの50年間を、綿密な取材で追ったノンフィクションである。その時代ごとに一世を風靡したカリスマホストや経営者の肉声をベースに、様々な事情を抱えて歌舞伎町に流れ着いた男性たちが、狭い世界の中で競い合い、騙し合い、奪い合い、時には助け合いながら、必死に生きていく光景が描かれている。
ホストクラブは、当初は「店舗」というよりも、ホストと女性との出会いの場を提供するマッチングの空間であった。暴力団とのつながりも深く、「逮捕される前に稼げるだけ稼いでしまえ」という価値観が支配的な世界だったという。
1990年代に入り、そうしたブラックな労働環境に反旗を翻して給与体系を改革し、広告戦略を駆使して集客を行う店舗が現れた。高学歴ホストの台頭やTVでのホストブームなどもあり、ホスト市場は拡大していった。

 

2000年代の歌舞伎町浄化作戦を経て、経営戦略のある店舗・グループだけが生き残ることになり、SNSによる情報発信や健全化路線の模索も進んだ。
表面的には健全化・企業化の進んだホストクラブだが、根っこの部分=水商売や性風俗の世界で働く女性を主要顧客にしている点、様々な理由で表社会から弾かれた男性たちが集まる空間である点は、昔からそう大きく変わっていないようにも思える。
社会から排除された男性は、「被害者」ではなく「加害者」として描かれることが多い。世間からは見えづらい世界の中で、日常的に暴力や薬物、闇金や詐欺などの犯罪に巻き込まれるリスクにさらされているにもかかわらず、繁華街で生きる若年男性は、同じ状況にある若年女性たちと比較しても、そもそも支援の対象になることが圧倒的に少ない。ここに大きなジェンダーバイアスがある。
経済的な理由などから生理用品を入手することが困難な女性を支援する「生理の貧困」の問題化など、コロナ禍で生活に困窮した若年女性を支援しようとする動きは多い。一方で、ホストクラブで働く若年男性たちは、コロナ禍で生活に困窮しているにもかかわらず、「新型コロナの感染源」として名指しで非難され、支援ではなくバッシングの対象になった。

 

コロナ禍で「夜の街」の脆弱性が明らかになった今、多くの政治家やNPOが掲げている「誰も置き去りにしない社会」を実現するためには、様々な背景や課題を抱えて繁華街に集まってくる若年男性の受け皿を、いつまでもホストクラブだけに任せておくわけにはいかないだろう。
本書を「半世紀にわたって公的支援から除外されてきた若年男性たちの歴史」という視点から読み返すと、また違った読み方ができるはずだ。華やかで刺激的なエピソードの裏側に見え隠れする彼らの共通項(=過酷な生育環境や貧困の連鎖)にも、ぜひ着目してほしい。

 

『夢幻の街 歌舞伎町ホストクラブの50年』角川書店
石井光太/著

この記事を書いた人

坂爪真吾

-sakatsume-shingo-

一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。 新しい「性の公共」をつくるという理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。 著書に『はじめての不倫学』『誰も教えてくれない 大人の性の作法』(以上、光文社新書)、『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『孤独とセックス』(扶桑社新書)など多数。

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