段ボールに入った捨て犬は過去の話なのか? おうち時間に考えたいペットとの付き合い方

金杉由美 図書室司書

『犬と猫 ペットたちの昭和・平成・令和』毎日新聞出版
小林照幸/著

 

 

去年の春は自宅待機日が多かったので、飼犬を連れて延々と散歩をしていた。
朝はベンチや遊具が物々しく封鎖された公園をあちこち巡って何キロも遠出。
夜は犬と一緒に50メートルダッシュを10本。
その結果、食の細かった飼い犬が餌を一心不乱に食べる飢えた獣と化した。
それでも全然太らないで、ムキムキっとした細マッチョに仕上がった。
トイプードルなんだけど。

 

おうち時間が多くなったためにペットを飼う人が増えたと聞く。
一方で、経済的に支障が生じてペットを手放す人も増えたらしい。
確かに犬を飼うのは結構な費用がかかるし、住環境が変わって飼えなくなることもあるかもしれない。
でも「ペットを捨てる」ということは、「家族を殺す」と同じ意味だ。

 

本書はある動物愛護管理センターを舞台に、昭和・平成・令和それぞれの時代で、捨てられた犬猫たちの扱いがどう変化していったかを追ったドキュメンタリー・クロニクル。

 

野良犬が巷にあふれ、それらを捕獲しては撲殺していた昭和初期。
捨てられたペットや、飼い主の持ちこむ犬猫の引き取りと安楽死が主な業務になった昭和後期。
保護された迷子の情報をインターネットに流したり譲渡会を開催したりなどの努力を重ねて殺処分が減ってきた近年。
動物愛護管理センターは、次第にその名称にふさわしい施設に近づいてきた。

 

しかしここにきてのコロナ禍。

 

捨てられるペットは増え、密を避けるために譲渡会は中止。
センターで収容できる犬猫の数には限りがある。あふれてしまったら処分するしかない。
動物たちにとってもセンターの職員たちにとっても、ふたたび受難の時代がやってきてしまった。

 

さらには狂犬病ワクチンの接種をしない飼い主が増えることも懸念される。
集団接種が延期になったりするので、接種をサボる人。ワクチンや登録の料金を惜しむ人。日本では狂犬病が根絶されているから打たなくてもいいと思う人。
いやいや。
狂犬病は常に、そこに迫る危機ですよ!
本書を読んであらためてその危険度の高さに震えた。
発症すれば苦しみもがいて100%死に至る。発症後の治療方法はまったくない。
日本は数少ない清浄国だが、世界では現代でも毎年多くの死者を出している感染症なのだ。

 

コロナ禍でこのままの状況が続くと、昔のように数多くの犬猫が毎日殺処分されたり、狂犬病が蔓延したりする可能性がある。
動物愛護管理センターの職員たちは、そんな事態にならないように日夜努力を続けている。
持ちこまれるペットは後を絶たずイタチごっこだけれど、それでもひとつひとつの命を繋ぐために。
飼い主によって持ちこまれる犬猫は「不用犬」「不用猫」と呼ばれる。
嫌な呼び方。ペットはゴミじゃない。
引き取りを有料にしたら持ちこみが減ったという。
どうしても飼い続けられない事情があるのではないけど、もう飽きて「不用」になったから無料なら引き取ってもらおっかなー、という飼い主が多いんだろうか?
恐ろしい。狂犬病と同じくらい恐ろしい。
飼い主が持ちこんだペットは、制度上、即処分が可能になっている。
つまり、「すぐに殺してもOK」なのだ。

 

大事なことだからもう一度言おう。
「ペットを捨てる」ということは、「家族を殺す」と同じ意味。
決して「誰かに代わりに飼ってもらえる」わけではない。
あなたが捨てたらその子は死ぬ。あなたが迎えに来ることを信じたまま死ぬ。
殺したのはセンターではなく、捨てた飼い主だということを忘れてはならない。

 

責任を考えると、もう怖くて次の犬なんか飼えないから、うちの細マッチョなトイプードルには長生きしてもらわないと困る。

 

こちらもおすすめ。

どんな咬み犬でもしあわせになれる 愛と涙の“ワル犬”再生物語』KADOKAWA
北村紋義/著

 

噛み癖のある犬や野犬は危険なので動物愛護管理センターからの譲渡の対象から外される。
つまり新しい飼い主に引き取られる可能性がゼロだということ。
本書はそんな犬を力によってではなく愛情で矯正するドッグトレーナーが書いた本。
ちなみにいちばん扱いが難しいのは、土佐犬でもドーベルマンでもなく、まさかのトイプードルなんですと。

 

『犬と猫 ペットたちの昭和・平成・令和』毎日新聞出版
小林照幸/著

この記事を書いた人

金杉由美

-kanasugi-yumi-

図書室司書

都内の私立高校図書室で司書として勤務中。 図書室で購入した本のPOPを書いていたら、先生に「売れている本屋さんみたいですね!」と言われたけど、前職は売れない本屋の文芸書担当だったことは秘密。 本屋を辞めたら新刊なんか読まないで持ってる本だけ読み返して老後を過ごそう、と思っていたのに、気がついたらまた新刊を読むのに追われている。

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