「他人の低い」は「自分の高い」!? 東京大学の「異才発掘プロジェクト」

坂上友紀 本は人生のおやつです!! 店主

『学校の枠をはずした 東京大学「異才発掘プロジェクト」の実験、
凹凸な子どもたちへの50のミッション』 どく社
東京大学先端科学技術研究センター 中邑研究室/編

 

作家にとって「デビュー作」が特別な意味を持つのと同様、出版社が世に放つ「最初の本」にもまた、並々ならぬ思い入れが込められていて然りです。なぜなら、ここから始まるからーっ! 
「どく社」は、今年大阪で産声をあげた出版社で、『学校の枠をはずした』は、どく社が世に向けて放った「最初の本」にあたります。

 

本を読んでいて楽しいことは何なのかと言えば、実にいろいろありますが、私の場合そのうちのひとつは「知らないことを知る!」。この本には、東京大学の「異才発掘プロジェクトROCKET」でこれまでに実際行われた500以上のミッションから厳選された50のミッションについての報告と、各界のトップランナー(数学者、デザイナー、料理研究家、エトセトラ)による名語録とが掲載されています。
名語録については一旦さておき、ひとまずROCKET=Room of Children with Kokorozashi and Extra-ordinary Talents=志と変な才能を持つ子どもたちの集まる場所、についてです☆

 

……うん!全然、知らなかったーっ! こんなプロジェクトがあったとは。しかも、2014年から始まっていたなんて!

 

ROCKETプロジェクトをざっくり説明すれば、「東京大学先端科学技術研究センター中邑賢龍研究室と日本財団の共同事業」で「学校ではない」ながら、「学校教育に馴染めないユニークな子どもたち」のうち、「小学3年生から中学3年生を対象に参加希望者を公募」し、「そこからユニークな子どもたちが選抜」。2014年に始まり、1年ごとに様々なミッションを成し遂げる教育プログラム(現在は2020年度の7期生が8名)。ミッションの一部を紹介すると、「イカの墨袋を破らずに取り出し、パエリアをつくれ!」や「北海道の大地で、幻の炭をつくれ!」、「養老先生とトリュフを探せ!」といった体験重視のものから、「ROCKETにルールは必要か、議論せよ!」や「ROCKETのコンセプトブックを批判せよ!」といった議論重視のものまで様々。
最初にこの本のあらすじを知った時には『窓ぎわのトットちゃん』でトットちゃんが通っていた学校に近いのかな?と想像したのですが、目次を見たら、「あれ、違うかも?」で、読み終わった感想としては、ある意味一緒で、ある意味全然違っていた。なんとなれば「ROCKETプロジェクト」からは、ものすごいサバイバル感を感じました。しかし、1期生に言わせれば、今のROCKETプロジェクトは「マイルドになった」そうですが、私には十分ストロングな数々のミッション……。ちなみにこの本に掲載されたミッションは、巻末の「これまでの実践記録」を参照すれば、主に2015年〜2019年に行われていた模様です。

 

自分で考えること。行動に移すこと。そして、自立しながらも他者の存在を気にかけること。無言の圧力と言ったら言い過ぎかもしれませんが、このプロジェクトのディレクターである中邑さんの言動の端端から、何が大事って、そういうことでしょ!みたいな印象を受けました。全体ちょっと意地悪で、言ってみれば「必要悪」を演じている(のか「素」なのかしらん!?)ディレクターさんの存在が、ROCKETプロジェクトのサバイバル感を生み出している気がするーっ!!
そして意地悪な言い方もすれば、怒る時には怒る。でも、期待するから人は怒るのです。大半の人が好き好んで怒りたくもなければ、嫌われたくもない。怒るって、時に愛です。

 

……と、ROCKETプロジェクトではなくディレクターさんの話になってしまいましたが、いわく「大人が子どもの学びを導くように道を示すのではなく、大人が壁になる教育」を目指したなるこのプロジェクトの特徴に、「教科書」「時間制限」「目的」「協働」なし、があるのですが、「協働なし」の影に隠れて、「思いやること」がいかに大事なものかも伝わってきます。そして、一番肝心なのは「自分で選ぶ」ということ。人よりちょっと大変なことも、ちょっと楽なことも、はたまた誰も見向きもしないようなことも、逆にみんながしたがるようなことも、全部「自分で選ぶ」からこそ、大変でも頑張ろう!となるし、もし途中でやめたとしても、「自分でやめた」のなら諦めもついて次にも進めます。結局、「自分がやりたいこと」がなんなのか、それを見つけることが大事なんだと納得できた本でしたが、一番「いいな!」と思ったところは、「残念ながら選考から漏れた子どもたちとも、さまざまな形で交流を続けて」いるところ!
ROCKETプロジェクトに漏れたからといってユニークな才能を持っていないわけではないし、「ユニークな才能」なんてものは、生きている限りは全員なにかしら持っています。だから一番大事なのは生きることで、そして同じ生きるなら楽しく生きたっていい。攻撃は最大の防御!ではないですが、世間や他人の価値観からいう「低い(学校に行けないこと)」は自分の「高い(ロケットのように打ち上がること)」になりうる可能性を感じた本でした☆

 

余談ですが、私が一番やってみたい!と興味を引かれたミッションは以下。

 

(ミッションNo.)45 文学作品の世界を「灯り」の違いから感じとれ!

 

歴史的な文学作品のなかには、しばしば「美しい灯り」が描かれるが、そもそもの灯りは現代のものと同じではない。その時代の灯りはどんなもので、どんな美しさだったのだろうか。(略)一つは薄く黄味がかった液体で、もう一つは透明だ。黄味がかったほうのこよりに火を灯すと、甘い香りが立ち込めた。次に、透明な液体に火を灯すと……、子どもたちは「焼き魚?」「臭い」と口々に言う。甘い香りがしたのは、平安時代に貴族が用いた椿油。焼き魚のような生臭い匂いがしたのは、江戸時代に庶民が作った鰯油だ。どちらの光もか細く、火元に近いごく狭い範囲を照らすだけ。相手の表情も部屋のすみも見えない。これを知る前と後では、文学作品の見え方ががらりと変わる。

 

しかもこのミッションをどこでやったかって、都会の近代的なマンションの部屋とかではなく、岩手県一ノ関市にある江戸時代末期に建てられた茅葺き屋根の古民家。
……これもうゼッタイ、面白いやつ!!

 

『学校の枠をはずした 東京大学「異才発掘プロジェクト」の実験、
凹凸な子どもたちへの50のミッション』 どく社
東京大学先端科学技術研究センター 中邑研究室/編

この記事を書いた人

坂上友紀

-sakaue-yuki-

本は人生のおやつです!! 店主

2010年大阪の中崎町で本屋を始める。2012年大阪の堂島に移転、現在に至る。好きな作家は井伏鱒二と室生犀星。尊敬するひとは、宮本常一と水木しげると青空書房さんです☆ 現在、朝日出版社さんのweb site「あさひてらす」にて、「文士が、好きだーっ!!」を連載中。

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