たまごにある日、手足が生えた。歩き出した。ことばをしゃべった!

横田かおり 本の森セルバBRANCH岡山店

『たまごのはなし』ブロンズ新社
しおたにまみこ/著

 

 

自分のなかにある、こころのありかをしる。
こんなことは一生にいちど、経験できるかどうか分からないような奇跡だわ。

 

こころが、こころが、むずむずっとしてぐらぐらってうごいたの。
こころがここにいるって確信できるくらいに、はっきりとした力強さでうごめいたの。
こころのいばしょをつきとめたわたしは、 “そこ”にいしきを集中させてみた。
熱くてうねうね動くかたまりみたいなそれをつかまえて、けっしてはなさなかった。

 

そしたら、そしたら、なにが起こったとおもう?
そこから何かがあふれだしたのよ。
とつぜんに、とうとつに、こぽおって何かがあふれたのよ。
内側からあふれた“それ”は、からだなんてやすやすと通り抜けて世界にこぼれおちたの。
それらをかき集めて、ときどき埃をはらったりなんかして、きれいにみがいてことばをあてがったものが、このもじのつらなりってわけ。

 

わたし、とんでもないものをみてしまった。
わたし、はてしない物語とであってしまった。

 

わたしがみたもののしょうたい、しりたい?
わたしがこの耳でしかときいたふしぎなはなし、ききたい?

 

ふんふん。
あなたったらしようのないひとね。そんなあなたに、こっそりしっかり教えてあげるわ。
じゃあ、じゅんびはいい?
いまさらやーめたは、しょうちしないわ。

 

わたしね、わたしね!
た ま ご の は な し をきいたのよ!

 

このたまごはね、ある日とつぜんぱちりと目をさましたんだって。ずいぶんながくころがってたみたいなんだけど、なんにもかんがえてなかったから、どのくらいとかはわからないみたい。
けれど、たまごはおもったの。

 

「どうして わたしは いつまでも こんなふうに ころがっているんだろ」って。

 

いままで、ただころがっていたなんてうそみたい。
たまごは初めて立ったとはとうてい思えないくらい、スムーズに立ちあがった。
とんだりはねたりも、うん、できる。
そして、しぜんに歩きだしたわね。

 

歩くため、つかむために、にょっきりはえた細くてながい手足。よくよくみるための目。おかしをたべたり、おしゃべりしたりするための口。あぁ、ぴったりのふくまできてる。
そうして――たまごは、さんぽに出ることにしたの。

 

キッチンにころがっているたまごたち。むりやり目をあけようとしたら、うなりごえをあげ、ころがっていってひびが入った。はぁ。このたまごの運命は、いりたまごかオムレツまっしぐら。
…わたしのせいなんかじゃ、ないわ。

 

つぎに出会ったのはマシュマロ。
袋をナイフで器用に引き裂いて、中からぽろりとでたマシュマロをかじってみた。

 

「なんで かじるのさ?」

 

ひぃっ、しゃべった。そして、ははぁんって理解した。
わたし、ことばを発していなかった。
わたし、無言でたまごたちをころがした。
ちょっぴり罪のいしき。わけもいわずにころがして…
ただ、うごくすばらしさをおしえようとしただけだったのよ。
まっ、もうどうすることもできないけどね。

 

マシュマロをみならって、なぁんてこともないんだけどさ。
ことばで意思をつたえることの大切さは分かった。
だから、わたしもしゃべることにした。
これからはわたし、あるいてしゃべるたまごなんだから。

 

マシュマロとともに、キッチンからおり立って、へやのなかをあるきまわった。
(キッチンからおりるのには、はがしやすいテープを使ったわね)

 

「たべものが うごきまわるな」っていった、うえきばちの口にはテープをはって。
だいじなしごとがあるからさんぽにいけないっていう、とけいからはでんちをぬいて。
ぶーぶーもんくばかりのナッツたちには、はちみつをかけてやった。

 

わたしがちょいっと、てをかければみんなだまったわ。
ぶーぶーもんくをいうまえに、ただ口をとじればいいだけのはなし。
わたしには、悪意も他意も、なにもない。
だから、ためらうことなく口をふうじたまでのこと。
ただ、こうしたらどうなるんだろ?って好奇心があったことだけはいなめないわね。

 

それでね。
わたしのなかに、うーん…たぶん存在している、きみがずれたきがしたしゅんかんがあったのよ。でも、なんだかもとのいちにもどったみたい。
もとにもどったことの、しょうめいみたいね。
いまは、雨がやんでひかりがさすのを、きれいだなってゆたかなきもちでながめてる。

 

さて、わたしが聞いた「たまごのはなし」。
ほんとうはまだまだあるんだけれど、きょうのところは、ここでおしまい。
なぜなら、わたしのなかでぐらぐらって揺れていたこころが、しんとしずまりかえったの。
しずまりかえったこころからは、いまのところ、もうことばがうまれそうな気配がないの。
こころがうごかないと、ことばがつむげないなんて、やっかいなはなしよね。
ふうって、アンニュイなふんいきをかもし、あさってのほうこうを見つめたわたしに、ぴかんとなにかがきらめいた。

 

ん?ん ん ん?
わたし、もしかしたら、たいせつなことにきづいたかも。
たいせつなことを、おもいだしてしまったかも。

 

わたしがこころと思ったもの。
それって、ほんとうにこころなのかしら。
もしかして、わたしがこころとおもったものって…
「きみ」だったんじゃないかしら。

 

だって、たまごのまんなかにはきみが、わたしのまんなかにはこころがあるのよ?
わたし、ひっつかまえてたしかめたんだから。まちがえるはずはない。

 

こんなぐうぜん、ありえるかしら。
ありえるかしら、ありえるかしら…

 

ありえないんじゃないかしら?

 

もしかして…
わたし、たまごなのかしら?
わたしも、わたしも、たまごなのかしら?

 

もしも、わたしがたまごでも。
せかいはなにもかわらないわ。

 

『たまごのはなし』ブロンズ新社
しおたにまみこ/著

この記事を書いた人

横田かおり

-yokota-kaori-

本の森セルバBRANCH岡山店

1986年、岡山県生まれの水瓶座。担当は文芸書、児童書、学習参考書。 本を開けば人々の声が聞こえる。知らない世界を垣間見れる。 本は友だち。人生の伴走者。 本がこの世界にあって、ほんとうによかった。1万円選書サービス「ブックカルテ」参画中です。本の声、きっとあなたに届けます。

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