蔦屋書店コンシェルジュが勧める「読書」をめぐる本(3/4)

三砂慶明 梅田 蔦屋書店人文コンシェルジュ

『読む時間 』創元社
アンドレ・ケルテス/著 渡辺 滋人/訳

『長田弘 全詩集』みすず書房
長田弘/著

 

■美しい読書『読む時間』

 

夢中になって本を読んでいる人たちを見ていて、いつも思うのは、どうしてこんなに人が本を読む姿というのは美しいのか、ということです。誤解を恐れずにいえば、人間が人間として、もっとも美しい行為が読書なのではないかとさえ思います。それが私だけの思い込みではないと教えてくれたのが、伝説の写真家アンドレ・ケルテスの古典的作品集『読む時間』です。

 

ケルテスの父が書店を営んでいたこともあり、ケルテスは50年以上にわたって、パリやニューヨーク、偶然訪れた東京や京都で、読むことに心を奪われた人たちを撮り続けました。屋上や公園、バルコニーや楽屋、電車、はたまたゴミ箱の上でなど、あらゆる場所で、本を読む人たちを写真におさめました。この半世紀にわたる膨大な蓄積の中から選び抜かれたこの小さな写真集は、平凡な日常を捉えただけにしか見えませんが、息をのむほどに美しく、いつまででも眺めていたい一瞬が切り取られています。

 

このケルテスのスナップ群に魂をゆさぶられた、マグナムの写真家スティーヴ・マッカリーは、その名も『スティーヴ・マッカリーの読む時間』という写真集で、オマージュを捧げました。ケルテスの白黒写真に対して、マッカリーが極彩色で切り取った世界各地の読む時間は、実際にその目でお確かめいただくとして、この本の序には、村上春樹さんが訳したことでも知られる作家ポール・セローの「読書について」のエッセイがおさめられています。

セローは、「私にとっての地獄は読むものの一切ない生活だ」というほどの筋金入りの読書人で、「傑作は読者に魔法をかけ、ときに異世界へと招き入れる」と自身の体験を通じて導き出された独自の読書論を展開していますが、「読むことに我を忘れている人の表情には、常に何か光輝くものがあるような気がしてならない」と、本を読む人の美しさを書き留めることを忘れていません。

 

■本が呼ぶ声『長田弘全詩集』

 

ケルテスの『読む時間』の表紙に使われているのは、陽光がさしこんだテーブルの上に開かれた本が置いてあり、頁が風になでられている写真です。ケルテスが一体、何の本を撮影したかはわかりませんが、もし私がここに本を置くならその本は間違いなく『長田弘全詩集』です。

 

長田弘は、「本は伝言板。言葉は一人から一人への伝言」と言い、伝言板のうえの言葉は、いつでも誰の目にもふれていて、いつでも風に吹かれていると書きました。

 

最初の詩集から50年、18冊の詩集、471篇の詩をおさめた本書には、どのページをひらいても発見があり、推敲しきったシンプルな言葉と「絶対に陽気でなければならぬ」という内なる声で記されています。

 

長田弘は、『世界は一冊の本』に、「生きるとは、考えることができるということだ。」と書き、「本を読もう。/もっと本を読もう。/もっともっと本を読もう。」と繰り返し続けました。「蔵書を整理する」という詩では、「本は、本であって、本でない」と書き、蔵書を整理するのが難しいのは、「誰もそう言わないが、本は、希望の産物なのだ」と言いきります。時を経てもずっと心から離れない25冊の本について書いた『幸いなるかな本を読む人』のあとがきに、「読書は正解をもとめることとはちがうと思う。わたしはこう読んだというよりほかなないのが、読書という自由だ。」と書いています。

 

詩を書くことは手仕事であり、一冊の詩集は、物の見方を、世界の秘密をおしみなく教えてくれると語り、この地球の上では、人間はまだしわくちゃの下書きにすぎず、その中でももっとも人間らしいものは、「なぜ」という問いだ、と書いた詩人の一生が、この本の中にこめられています。端正な装丁にも思わず見惚れてしまいますが、どの詩集にも本への愛、本を読むことへの愛が、しっかりと刻み込まれています。

 

 

『読む時間 』創元社
アンドレ・ケルテス/著 渡辺 滋人/訳

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『長田弘 全詩集』みすず書房
長田弘/著
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この記事を書いた人

三砂慶明

-misago-yoshiaki-

梅田 蔦屋書店人文コンシェルジュ

1982年兵庫県生まれ。大学卒業後、工作社『室内』編集部に入社。休刊後は、本とその周辺をうろうろしながら、梅田 蔦屋書店で念願の書籍担当に。『サンガジャパン』(サンガ)、『ひとりふたり・・』(法蔵館)、WEB本の雑誌「横丁カフェ」(第一木曜日)の読書案内を担当。(著者写真撮影/濱崎 崇)

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