悩みとは、人とつながるための武器である 『「非モテ」からはじめる男性学』

坂爪真吾 一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

『「非モテ」からはじめる男性学』集英社
西井開/著

 

 

本書『「非モテ」からはじめる男性学』は、モテないことについて悩む男性たちの語り合いグループ「ぼくらの非モテ研究会」発起人である著者が、男性が「非モテ」という苦悩を抱くまでの過程や内実を分析し、苦悩の背景にある問題構造や社会課題を解き明かす一冊である。

 

「非モテ」の問題も含めて、男性が自らの悩みや苦しみに関して公の場で声をあげたり、同じ境遇の他者と語り合う機会は、決して多くない。

 

私自身も、これまで「JKビジネスを利用する男性」「パパ活をする男性」に焦点を当てた本を刊行してきた。取材や執筆の過程で強く感じたことは、男性は女性に比べて、自らの悩みや痛みを言語化するスキルや機会が圧倒的に不足している、ということだ。

 

多くの男性は、自分の性にまつわる欲求や体験を、自分の言葉で語ることができない。例えば風俗の利用についても、「自分がなぜ風俗に行くのか」「それによって何を実現したいのか」をうまく言語化できないまま、なんとなくモヤモヤした気持ちを抱えたまま利用している、という男性は少なくない。

 

こうした現状は、「男性特権に満ちた社会の中で、男性は女性に比べて恵まれており、自分の悩みや痛みに正面から向き合わなくても済むから」と捉えることもできる。

 

一方で、自らの苦しさを自覚できない、言葉にすらできないというのは、決して特権などではなく、深刻な「病」であるともいえる。

 

なぜ自分が苦しいのかわからない。自分が何を欲しいのか、何がしたいのか、わからない。どうすれば、苦しさから抜け出せるのかもわからない。

 

こうした状況に置かれた場合、自分の苦しさを帰属処理できる=「こいつのせいだ」と名指しできるような、わかりやすい物語や原因が吸引力を持つことになる。

 

「女性との親密な関係を築けない」ということは、男性にとって最もわかりやすい苦しさの原因である。「自分が苦しいのは、女性と親密な関係を築けないからだ」と考えると、あらゆる苦しさを理路整然と説明できてしまう。

 

しかし、当たり前の話だが、悩みや痛みは一人一人違う。十把一絡げに「女性にモテないから」という一言で説明できるほど、単純ではない。本書の帯にある「ぼくらは本当にモテないから苦しいのか?」という問いは、非モテに悩む全ての男性にとって、考えるに値する問いであるはずだ。

 

そして、「苦しさを説明できる」ことと「苦しさを解決できる」ことは、全くの別問題である。

 

例えば、「女性との親密な関係を築けないから」という物語以外にも、「男性中心社会によってつくられた価値観を内面化しているから」というフェミニズム寄りの物語から考えると、男性のあらゆる悩みや痛みを理路整然と説明できてしまうが、当事者の苦しさはそれだけでは解決しない。

 

悩みとは、人とつながるための武器である。「この苦しさを説明したい」「この苦しさを解決したい」「この苦しさを特権化したい」といった欲望をいったん脇に置いておいて、悩みを通して、まず他者とつながること。そして、借り物の言葉ではなく、自分自身の言葉で、苦しさを語り合うこと。

 

これが、多くの悩める男性にとって「非モテ」の呪縛から逃れるための第一歩になるのではないだろうか。

 

年代やパートナーの有無を問わず、「非モテ」に悩んでいる・悩んでいた男性には、ぜひ本書を手に取って、文中に登場する「非モテ」男性たちの語りに自らの体験を重ねながら、自分の気持ちを言語化することにチャレンジしてみてほしい。

 

『「非モテ」からはじめる男性学』集英社
西井開/著

この記事を書いた人

坂爪真吾

-sakatsume-shingo-

一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。 新しい「性の公共」をつくるという理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。 著書に『はじめての不倫学』『誰も教えてくれない 大人の性の作法』(以上、光文社新書)、『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『孤独とセックス』(扶桑社新書)など多数。

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