正義の反対は悪ではない。もう一つの正義だ。

坂爪真吾 一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

 

『LGBTの不都合な真実』秀和システム
松浦大悟/著

 

2021年6月1日、朝日新聞の「交論」にて、「社会の中の性風俗業」というテーマで、私とソーシャルワーカーの藤田孝典氏の対論記事が掲載された。
新型コロナの影響で経営が苦しくなっている事業者を支援するための給付金(持続化給付金)について、性風俗事業者が支給対象外になっていることについて、私は「性風俗事業者も対象にすべき」という立場、藤田氏は「対象にすべきではない」という立場から、それぞれ主張を展開した。

 

この対論は様々な反響を呼び起こしたが、ツイッター上で最も多くRTされた投稿は、私や藤田氏の主張の是非についてではなく、「論者が二人とも男性であること」自体への批判であった。性風俗は女性が働く世界であり、女性への影響が大きい話題であるにもかかわらず、女性の研究者やアクティビストが呼ばれないのはけしからん、という意見だ。
「そ、そこかよ・・・」と脱力感を覚えた。確かに性風俗は女性が働く世界だが、利用者は男性であるし、経営者もほとんどが男性だ。女性だけの問題では全くない。

 

さらに言えば、私や藤田氏よりもコロナ禍の性風俗の現場に詳しい・当事者に対する支援実績のある女性研究者やアクティビストは、国内には一人もいない。そうした中で、「女性だから」という理由だけで、現場を知らない人間の主張を紙面に出したところで、誰の利益にもならないだろう。

 

コンテンツの内容よりも、それにかかわっている人たちのジェンダーや性的指向などを問題化して、その「偏り」に対して「政治的に正しくない」と批判するスタンスは、近年様々な場面で目立つようになっている。
ジェンダーバランスへの配慮が重要であることに議論の余地はないが、「ジェンダーバランスが偏っているから」という理由でコンテンツの全てを否定してしまうことには、無理がある。「角を矯めて牛を殺す」結果に終わってしまうリスクもあるだろう。複雑な現実や多様な当事者を、「政治的に正しい理念」の鋳型に無理やりねじ込もうとすることの弊害が最も表れやすい現場の一つが、LGBTをめぐる社会運動である。

 

本書『LGBTの不都合な真実』では、自らもゲイである元参議院議員の松浦大悟氏が、LGBTをめぐる報道と現実の落差や、近年起こったLGBTに関する炎上事件の内幕を明らかにしている。その上で、LGBT運動が左派的な方向に偏ることへの危機感を基に、保守の立場からのLGBT論を展開している。
議論を許さずに、目の前の異物を取り除くことが正義だと信じているだけでは、社会は変わらない。LGBTに対して拒否感を持つ人のことも理解し、相手に共感してもらえる言葉をどう見つけていくかを考えることは、決して差別の容認ではない。自分たちが信じる正義を理論的に説明すれば、相手は納得してくれるわけではない。なぜならば、正義の反対は悪ではなく、もう一つの正義だからだ、と松浦氏は主張する。

 

批判される側にも正義があり、当事者がいる。あらゆる人を「敵/味方」の対立図式に分ける議論がメディアやSNSで過熱しがちな現在、自分たちとは異なる正義、自分たちとは異なる価値観を持った当事者とどのようにコミュニケーションを取り、同じ社会の中で共存していくか、という問いは、LGBT運動に携わる人だけに向けられた問いではないことは明らかだ。

 

現行のLGBTをめぐる報道や運動に違和感を覚えている人、そして価値観の異なる他者と共存していくための具体的な方法に関心のある方は、ぜひ本書を手に取ってみてほしい。

 

『LGBTの不都合な真実』秀和システム
松浦大悟/著

この記事を書いた人

坂爪真吾

-sakatsume-shingo-

一般社団法人ホワイトハンズ代表理事

1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。 新しい「性の公共」をつくるという理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。 著書に『はじめての不倫学』『誰も教えてくれない 大人の性の作法』(以上、光文社新書)、『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『孤独とセックス』(扶桑社新書)など多数。

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