業界の生き字引(?)が正直に語る、ネットの未来、テレビの未来 『誰がテレビを殺すのか』

古市憲寿 社会学者

『誰がテレビを殺すのか』角川新書
夏野剛/著

 

 

「iモード」を立ち上げたことで有名な夏野剛さんの最新作だ。
タイトル通り、ネット業界に押されるテレビ業界についての本なのだが、おすすめは第2章である。

 

テーマは「5G」。最近やたら「5G」って耳にしませんか? 5Gとは、第5世代移動通信システムのこと。要は、外出先であろうと、今よりも速い速度でインターネットが使える時代が訪れるというのだ。

 

日本で3Gが導入されたのは2001年頃。2010年から3.9G、2014年から4Gの時代が始まっている。携帯電話各社は、2020年までに5Gの実用化を目指す。

 

最近は「5Gが実現したら、社会がガラッと変わる」という起業家やメディア芸人がたくさんいる。あらゆる場所で高速通信が可能になることで、自動運転から遠隔手術まで、様々なことが実現するというのだ。

 

しかし、夏野さんは正直である。

 

・高速通信が実現できても、コンテンツがなく、オーバースペックなのではないか。スマホサイズの画面で4Kや8Kの映像を見る意味がない。
・5Gでは最大10GBの通信速度を得られるが、一つの基地局で100人が接続していた場合の速度は100MBまで落ちる。その程度のスピードなら、今のWi-Fiでも実現できている。

 

こんな具合。要は、5Gにはあまりインパクトがないというのだ。古巣のドコモに気を遣わない点など、とても格好がいい。

 

先日、AbemaTVで共演した時は、もっと直接的に、5Gを礼賛するのは、「得をする人たちのポジショントーク」と言い切っていた(https://abematimes.com/posts/4608762)。そもそも5Gのアンテナを張り巡らすのには3年から5年がかかるので、利用者がすぐに恩恵を受けられるわけではないという。確かにね。

 

世にはびこる5G礼賛の議論は、純粋な技術と、それが実現するかもしれないサービスを、おそらく意図的に混同している。

 

この本の第1章を読んではっとしたのが、日本はアメリカよりもブロードバンド整備が進んでいたにもかかわらず、Netflixのような世界的サービスが生まれることがなかったということ。ようやくアメリカで光通信が普及し、Netflixがネット配信動画サービスを始めたのは2007年なのだ。

 

要は、いくら技術だけが先行しても、他の制度が変わらなければ新しいサービスなんて生まれないということ。放送や通信業界への新規参入の難しさ、一部芸能プロダクションの前時代的な戦略などについても本書は紙幅を割く。

 

53歳を迎え、まるでインターネット業界の生き字引のようになった夏野剛さん。さすがに自らが取締役をつとめる会社への忖度は感じられたが(そりゃそうだ)、まあまあ正直に書かれた本だと思う。

 


『誰がテレビを殺すのか』角川新書
夏野剛/著

この記事を書いた人

古市憲寿

-furuichi-noritoshi-

社会学者

1985年東京都生まれ。社会学者。『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)で注目を浴びる。

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