「あたりまえ」を揺さぶる、子どもの質問にも似た「そもそも」の力『さよなら未来』

大山 ヴィレッジヴァンガード新店立ち上げ隊長

『さよなら未来――エディターズ・クロニクル 2010-2017』
著/若林 恵

 

 

「おとーさん、なによんでるの?」

 

日曜日、ソファに座って読書をしていたら、隣で同じく読書をしていた5才の娘からふいに質問タイム。

 

「さよなら未来」とタイトルをシンプルに答えたところで
「それなに?」
「どういういみ?」
「どうしてよんでるの?」
「じ、おおいの?」
と質問コンボが続くのは間違いありません。

 

とは言え、今娘が手に持っている本のように
「おしりそのまんまの顔をした探偵がププッといろんな事件を解決する話だよー」
なんて簡潔な説明ができるイメージもありません。

 

えーっとね、これはね、未来のことについてのいろんな考えが書いてあって…
あ、でもこの時未来だと思ってたことがもう今だったり、そんな未来は来なかったりもしてるし…
なんて考え込んでいる内に娘はいつの間にかテーブルでおやつ食べてる…
答え聞かんのかーい。

 

良くある日曜の午後ですね。

 

後日、ソファに座って今度はダラダラテレビを見ている時、
「おとーさん、いんたーねっとってなに?」
と、またしても5才の娘からのふいの質問タイム。

 

えーっとインターネットか…なんかデカいのきたよ。
世界中の人を通信でつないでー、って通信がわからんか…
「そもそも」インターネットって何するもんなんだっけ?

 

無邪気な子どもの質問が「そもそも」ってやつを考えさせられる根源的なものだったりするのはありがち過ぎる「the子育てあるある」です。
「なんで?」を5回、ってお前どこのエグゼクティブやねん、とか思ったりすることも。

 

そんな無邪気な子どもの質問にも似た「そもそも」がこの「さよなら未来」という本には至る所にちりばめられています。

 

「原発」って「オール・オア・ナッシング」の議論しかないの?本当に?
そもそも「働く」(work)=「雇用」(job)って考え方自体がイビツなのでは?
「音楽産業」って言うけどそもそも音楽に産業は必要なのか?
「仮想通貨」って言うけどお金ってそもそも「仮想」じゃない?
「ことば」の定義って?それをことばで説明するのってメビウスの輪みたい?
会社ってなんのためにあるんですかね?
「自立」の反対語は「依存」って言うけど、何かに依存しないで生きてる人間なんている?

 

どうです?とてもめんどくさそうで、だけど絶対無視できない感じがしませんか?

 

「え?なんで?」とか、
「それやる意味あります?」とか、
「それ本当ですか?エビデンスあります?」とか、
他人のやること、やろうとしていることを根本から揺るがす質問をする人間は得てして感じが悪いです。(個人の意見です!)
個人的にはこれを感じ良くやれてる人はほとんど見たことがありません。(個人の意見です!)

 

筆者自身も「これ(ルーチン化されたことばやアイデアを、頼まれずとも「え?なんで?」と混ぜっかえすこと)には我慢と執着が必要なのだ」と言っているように、「そもそも」と思考することには、それを問うた相手からの反発と困難が伴います。
逆にその「そもそも」がイノヴェイションの芽をつぶすことだってありそうです。

 

でも誰かの「そもそも」がなければ
「電話とパソコンが一緒になったデバイス」も
「音楽を定額で聴く文化」もなかったかもしれません。

 

なにか新しいこと、人とちがったことをするには勇気がいる。 -p281

 

『WIRED』を編集するなかで、新しいテクノロジーのもたらす意義や影響といったことを考えるにつけ、それがどんなテーマであっても気づかされてしまうのは、それまでの「あたりまえ」が、実は「あたりまえ」でもなんでもなく「ただその時代にあたりまえとされていただけ」のことだったということだ。-P266

 

「あたりまえを疑え」って手あかまみれの言葉ではありますが、気になって触れてる人が多いから手あかまみれなんでしょう。

 

子どもにはまだ「あたりまえ」を構成する知識自体が少ないから、無意識に根源的な問いを発することができます。
でも大人は意識して「あたりまえ」を疑って、あえて「そもそも」と考えなくてはいけません。
そしてそこからの思考には知識や経験が助けになる部分もあれば、成功体験がかえって足かせになる部分もあるかもしれません。

 

だから「なんで?」とか「そもそも」って誰かに言い返されたときはきっと、自分の中の「あたりまえ」を疑うチャンスなんだと思います。

 

知らず知らず環境に適応し過ぎて手クセでばかり仕事していたことにはたと気付いて、どうにも恥ずかしい気持ちにもなったり。

 

まだまだいくらでも語れそうな本ではあるんですが、最近の娘の話で終わりにします。

 

「おんなのこだからおとこのこのテレビはみないの!」
(日曜の朝、仮面ライダービルドの最終回ではなく、マジョマジョピュアーズにチャンネルを合わせながら)
…ってキミ、めちゃめちゃ保守的やないか!

 

お父さんは仮面ライダー好きな女の子もプリキュア好きな男の子も、40過ぎて両方好きなおっさんもアリやと思うで!

 

 

ー今月のつぶやきー

前に使ってた首に引っ掛けるタイプのワイヤレスイヤホンが断線して逝ってからしばらく安物の完全ワイヤレスタイプを使ってたんですが、選んだ自分のセンスのなさを絶望しそうになるほどコイツのクセがスゴい。

・最初にPLAYボタンを押すと必ず優しくフェードインしてくる謎仕様
・一番小さいパッドでもギチギチの欧米サイズ。1時間聴いたらもう激痛。
・音質なんてわからない耳バカにすら疑いを抱かせるのっぺりした音

ごめん…もうお前とはこれ以上付き合えない…
気になるヤツを見つけたんだ…シャレオツでちょっといいヤツを!
マグネットでイヤホン同士がくっついてペンダントみたいになるところもかわいい。
今度は長い付き合いになりそうな予感。

 

『さよなら未来――エディターズ・クロニクル 2010-2017』
著/若林 恵

この記事を書いた人

大山

-oyama-

ヴィレッジヴァンガード新店立ち上げ隊長

本は読むのと同じぐらい、新しい本を探すのも読んだ(あるいは読んでない)本について語るのも好き勝手に本棚に並べるのも好きです。 人の本棚見るのも大好きです。

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