図鑑は「世界の扉」である(4/4)――はじめての野外生活マニュアル『冒険図鑑』

三砂慶明 梅田 蔦屋書店人文コンシェルジュ

『冒険図鑑 野外で生活するために』福音館書店
さとうち藍(文)、松岡達英(絵)

 

写真/濱崎 崇

 

図鑑のことを知れば知るほど、好奇心を刺激されて、もっといろんなことが知りたくなります。読めば読むほど不思議に思うのは、老若男女を問わずに楽しめる敷居の低さと底知れぬ懐の深さです。

 

その一つの極みが、装丁から中身まで印刷技術の技巧を凝らして、地球そのものを一冊の本の中に閉じ込めようとした『地球博物学大図鑑』(東京書籍)でしょうか。

 

また、目に見えない人間の思考をイラスト化して辞典のようにおさめてしまった『哲学用語図鑑』(プレジデント社)のような刺激的な図鑑もあります。

 

いつも心を惹かれるのは、哲学なら哲学、科学なら科学とお行儀よく書店の分類におさまる本ではなく、そこからはみだしてでも何かを伝えようともがいている本です。

 

今回ご紹介するのは、1985年に発売されてから版を重ね続けている『冒険図鑑 野外で生活するために』(福音館書店)です。本書は、子どもたちに楽しい休日を贈るためにつくられた「DO!図鑑シリーズ」の記念すべき第一作です。

 

図鑑と名付けられていますが、判型といい、レイアウトといい、文章といい、図鑑らしくはありません。一見するとアウトドアライフのガイドブックのようにも見えますが、この図鑑が圧倒的なのは、野外での生活を通じて、人生そのものをガイドしていることです。時代を超えていまなお、読者に人生は冒険なのだと訴えかけてきます。

 

写真/濱崎 崇

 

地味な装丁ですが、ひとたび頁をめくると、著者が読者に伝えたいと切に願っている人生の処方箋が宝石のように美しい言葉で綴られています。

 

「冒険は、人生そのものである。楽しいこともあれば、思いがけないことも起こる。野外で体験したすべての出来事は、学校を出てからも、自分の人生の中で、大いに役立ってくれるだろう。」

 

という著者のメッセージには特に共振しました。

 

ちいさな子どもと一緒に街中を散歩していると、子どもにとって世界はまだ何も書かれていない白地図で、私たちにとっては単なる散歩だったとしても、子どもたちには未知の世界の冒険なのだということに気づかされます。

 

著者のさとうち藍は、冒険とは何だろう、という問いからはじめて、冒険とは準備をした上で、世界へと踏み出す勇気だといいきります。

 

かいつまんでいうと、この本に描かれているのは、野外で生活するために必要なことです。

 

すなわち、歩くこと、食べること、寝ること、危険に遭遇したときのこと、ケガをしたときのこと、遊ぶこと、工作すること、自然を観察することなどです。

 

人間がつくった建物の中ではなく、天井のない野外での生活にはルールがありません。

 

前にも後ろにも横にも壁はなく、叫ぶことも走ることも寝転がることも、何をするのも、しないことすらも自由です。ただ、この自由には責任があるのだと著者はいいます。

 

実際にこの本をもって野外に出てみると、自分の想像が及ばなかったり、本に書かれていない事態が起ったり、自分で考えて行動するのは意外に難しいのだということに気づかされます。そして、そのような困難に行き当たったときに、本書をひらくと、そこに考えるヒントが記されています。

 

誤解をおそれずに言うならば、本書は生きる技術について書かれた本です。人間として生きるということが果たしてどういうことなのかを、本書は教えてくれます。

 

 

『冒険図鑑 野外で生活するために』福音館書店
さとうち藍(文)松岡達英(絵)

この記事を書いた人

三砂慶明

-misago-yoshiaki-

梅田 蔦屋書店人文コンシェルジュ

1982年兵庫県生まれ。大学卒業後、工作社『室内』編集部に入社。休刊後は、本とその周辺をうろうろしながら、梅田 蔦屋書店で念願の書籍担当に。『サンガジャパン』(サンガ)、『ひとりふたり・・』(法蔵館)、WEB本の雑誌「横丁カフェ」(第一木曜日)の読書案内を担当。(著者写真撮影/濱崎 崇)

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