『バッテリー』だけじゃない!キュートで笑えるあさのあつこの傑作時代小説『にゃん!』

横田かおり 本の森セルバBRANCH岡山店

『にゃん!』白泉社
あさのあつこ/著

 

 

恥を忍んで、打ち明けよう。

 

あさのあつこさんの作品をほとんど読んだことがなかった。(限りなく小声)

 

岡山が誇る偉大な作家ということは百も承知だ。けれど、けれども、今まで手に取る機会が……ほとんどなかった。(消えいるような声)

 

言い訳をさせてもらうと、そのきっかけとなる出来事があったのだ。

 

高校生の頃、苦手なクラスメートがいた。人の心にズケズケと入り込んでくるような感じがどうにもこうにも苦手だった。

 

その子が不意にいった言葉、「私、『バッテリー』っていう小説が好きなんよ」。

 

私は当時から本の虫だったので、その姿を見ていたのかもしれない。もしかしたら、私と本の話がしたかったのかもしれない。でも、浮かんだのは不信感と拒絶感。なぜ私に本の話を?そして心には、はっきりくっきり×マーク。私は「あさのあつこさんの本か……決して読むまい」と武士のように誓ったのだった。

 

あれから数十年。書店員という仕事に就き、毎日たくさんの本に触れるようになった。あさのあつこさんの本も何度となく目にして、どれだけこの手に触れただろう?そのたびにチクッと心が痛んだ。あの時の情景が脳裏をよぎっていたから。

 

「読んでみよう」と思った理由は、ささいなことだった。発売前の書籍を電子ゲラとして読める「Netgalley」というサイトを閲覧していた時、ふと目にとまった。

 

劇的な心境の変化があったわけではない。時代小説を読めるようになりたいと思っていたころでもあったし、読みやすそうだなと思った。自然に「読みたい」という気持ちになった。

 

結果は……いわずもがな。めちゃめちゃおもしろかった。タイトルが『にゃん!』であるからして、もちろん「猫」が出てくる。ちなみに超、重要人物。

 

一言で表すと江戸時代が舞台のお家騒動なのだが、出てくる登場人物がとんでもなく魅力的なのだ。

 

主人公のお糸は奥方の珠子に仕える身。田舎から出てきて右も左も分からず、最初はおどおどしているが、持ち前の芯の強さを発揮して、珠子を立派に守るようになる。

 

あどけない田舎娘だったお糸の顔つきが、どんどん美しく精悍になっていくのを、まるで映画のスクリーンで見るかのようにイメージできる。

 

奥方の珠子はお殿様ラブでとんでもなくキュートだけど実は隠された秘密があったり、お殿様は深くて広い心で珠子を愛していたり。敵方のあいつやそいつも、なんだか憎めない。

 

現実世界で出会うと「こいつ、いやぁ~なやつだな~」って絶対思うけれど、ページの向こう側だと「まぁまぁ、こんな人も必要よね。いいスパイスだわな」と思ってしまう。魅力的な登場人物たちが本の中を駆け巡り、一緒に泣いたり笑ったり。ページをめくれば、いつでも魅力的な人々に会える。それだけで、なんだか嬉しいような気持ちになった。

 

元気な時には何も考えずに「アハハ」って笑える。元気がない時にも物語の人物たちに引っ張られて「はは……あはは!!」って、やっぱり笑っちゃう。健やかなる時も、病める時も、いつだってそばにいてほしい本なのだ。

 

「食わず嫌い」ならぬ「読まず嫌い」だった私の心を時間がまろやかにし、最高の出会いを演出してくれた。となれば、嫌いだったあのクラスメートにも「ありがとね」って言いたくなったりするじゃないか。

 

 

『にゃん!』白泉社
あさのあつこ/著

この記事を書いた人

横田かおり

-yokota-kaori-

本の森セルバBRANCH岡山店

1986年、岡山県生まれ。担当は文芸書、児童書、学習参考書。 本を開けば人々の声が聞こえる。知らない世界を垣間見れる。 本は友だち。人生の伴走者。 本がこの世界にあって、ほんとうによかった。

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