『ネオ』歴史小説(前編)
市川淳一『ぼんくら書店員のぼんくRADIO』

bw_manami

2019/04/15

◆小説とゲームを越境する

 

―(時代小説は)ひとつのパーツを切り取っていると。話が戻るんですけど、「ネオ」が付くのはどういったところに理由があるんですか?普通の「歴史小説」と「『ネオ』歴史小説」。要は偉人を扱ったり戦乱の世の中だったりして。何が違うんですか?

 

市川:基本的に僕は2つ定義していて。「堅苦しくなく純粋にエンタメとして楽しめる」ことと、「『信長の野望』で武力または知力が80台前半から90台ちょっとぐらいまでの武将を主人公にしている」作品が、(実際に)ネオ歴小説とは言わなくとも、かなりの割合を占めているなと。

 

園原:斬新ですね。パラメータから人物を割り出す。

 

―「信長の野望」は知力とか武力とか色んなパラメータがあると思うのですが、ネオ歴史小説に出てくるキャラクターはどれかが80台前半~なんですか?それとも全部のパラメータが?

 

市川:全部が90台とかいっちゃうと、それはもう武田信玄とか織田信長の大御所になっちゃう。加山雄三とか(笑)

 

―戦艦光進丸。

 

園原:北島三郎。

 

※戦艦光進丸……加山雄三氏が所有する舟。その正体は独立国家であり、米国やロシアを優に勝る軍事力を誇ると噂される。

 

市川:これは海音寺潮五郎さんとか司馬遼太郎さんが描いちゃってる。そうじゃなくて、これは言っちゃいけないと思うんだけど(笑)、氷川きよしとか。

 

―氷川きよしってそれくらいなんですか!?(笑)

 

市川:わかんない。全然たとえが浮かばない(笑)

 

―氷川きよしは強そうですけどね(笑)とにかく大御所の信長とかではなく、一点突破型。

 

市川:富樫倫太郎さんの軍配者シリーズ、中公さんのですごい売れてたのが、主人公が風魔小太郎、山本勘助、宇佐美定満。渋くて良い。天野純希さんの『破天の剣』は島津家久。武力93とか。

 

園原:武力は突出している。

 

市川:で、直木賞候補にもなった木下昌輝さんの『宇喜多の捨て嫁』なんかは知力96くらいの宇喜多直家。ここら辺のメンツが多分、ゲーム世代の琴線に触れるんじゃないかと。

 

園原:こう聞くと、ゲームから読むか小説から読むか気になってきますね。

 

市川:そこってすごくリンクしていて、子供の頃に吉川英治なんかを読んで「歴史って面白いな。武田信玄ってすごいな」みたいな感じでゲームをやるじゃないですか。「信長の野望」を。その中で「知らないんだけどすごく強いやつ」が出てくるんですね。

 

園原:気になる存在ですね。「なんだこいつは」と。

 

市川:山県昌景とか。朝倉宗滴とか。誰なんだこいつは?と。子供心にず~っと疑問に思ってたんだけど、そこを補完してくれる物語がないんですよ。という世代だった子供たちが育って今、作家さんや編集さんになっているので、そういう時流が起きているんじゃないかなと。

 

園原:むしろその人たちが求めていた。

 

市川:「子供の頃の僕」の琴線を奏でてくれる。絶対そうだと思います。

 

安部龍太郎さんがこないだ蒲生氏郷の小説を出したんですけど、すごい売れたんですよ。

 

「なんでこの本だけすごい売れてるんですか?」って後輩に言われたんで、「だって蒲生氏郷だぞ?」と。

 

―いやいやいや、わかんないですよ!(笑)素人からすればわかりませんが、そうなんですか?

 

市川:知力93とかそんなんだぞ!と。「信長の後継者」と言われていた。若くして夭折してしまうんですけど。やっぱりそういう需要はあると思うんです。

 

園原:パラメータから語るこの熱が半端ないですね。

 

市川:僕の妄想ではあるんですけど、例えばこないだ戎光祥出版から出ていた『正伝 岡田以蔵』を「Fate/Grand Order」が使い、「この岡田以蔵めっちゃいいじゃん!」となり、ホンの売上も上がって「Fate/Grand Order」のオビになったり。

 

園原:まさかそういう展開になるとは、という。イラスト付きで。

 

―ゲームと本の世界がリンクし合っていると。相乗効果みたいな。作品の元ネタにもなれば、受け手側も行き来している。

 

※Fate/Grand Order……TYPE-MOONによるゲーム作品『Fate/stay night』を元として製作されているソシャゲ。通称FGO。大人気の一方でガチャの排出率が本当に悪く、多くの廃課金を生み出している。最近は古参優遇との批判も。

 

市川:例えば戦国時代とか三国志は世界観が出来上がっている。スマホゲームとかものすごい量が出ている。一からキャラクターを作るのではなくて、歴史上の偉人をリブートというか脚色すると、割と簡単に(といったら失礼ですけど)作れる。土壌があるし、二次創作しても権利がどうたらとかならないし。すごい使いやすいと思うんですよね。

 

歴史小説に関わっている人が意図しないところで、歴史に対する(読者の)造詣ってスマホゲームからとかものすごい深まっているような気がする。

 

園原:逆に、スマホゲームから小説に入る方たちは共有しているものがあるからこそ読みやすいとかもあるのかな。

 

市川:スマホゲームから歴史小説に入って、またゲームに返ってくる形が今後もし上手くいけば、歴史小説が若い人に読み継がれていくんじゃないかなって。

 

園原:まさに「ネオ」って感じですね。

 

―「ネオ・ネオ」というか。今まではテレビゲームだったのが、ソシャゲあがりで小説家になるみたいな。どういう物語が出てくるか気になりますね。

 

【後編へ続く】

ボンクラ書店員のぼんくRADIO

ぼんくら書店員・市川

「『竜馬がゆく』と『燃えよ剣』の出版社の違いが分かる」を理由に、自信満々で某チェーンにアルバイトとして入社し10年が経過。光栄のゲームの武将パラメータを眺めながら、歴史小説を読むのが日課のボンクラ書店員。たまに本の帯やポップをデザインしたり、小説の巻末に漫画を描いたりしています。1981年神奈川生まれのAB型。
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